緩和ケアのコースの課題の緩和ケア関連施設・職種の訪問先の第四弾はMacmillan Nurse(マクミラン・ナース)。
Macmillan nurseとはMacmillan cancer relief で働く専門看護師で正式にはMacmillan clinical specialist Nurseという。

このMacmillan Nurseはイギリスの正看護婦(First level)の免許を持ち、免許取得後5年以上の臨床経験(そのうち2年以上は癌看護または緩和ケアに関わっていること)、Oncology(腫瘍学)またはPalliative care(緩和ケア)の学位を持っていることが最低限の条件となっている。

Macmillan cancer relief は癌などの余命が限られる疾患とともに生きる人々のQuolity of life (生命の質)の向上をサポートするチャリティ団体で、イギリスにすんでいる方だと名前をきいたことがある人がいるかもしれない。ここのチャリティショップを訪れたことのある人もきっといると思う。

Macmillan cancer relief の始まりは1911年。Douglas Macmillanが父親が癌におかされ不必要な痛みや苦痛をに苦しんでいるのをみて、癌に苦しむ人々のためのサポートを呼びかけたのに始まり、現在 Macmillan cancer relief はイギリスでも最大級のチャリティ団体に成長した。

Macmillan nurseの仕事は地域医療において、癌などの余命が限られる疾患を持つ人々とその家族に対してさまざまなサポートとアドバイスをすること。例えば、疼痛管理、症状管理、精神的サポート、死別のサポートなど。そしてGP(イギリスで言うかかりつけ医)やDistrict Nurse(訪問看護師)とも提携を持っており、継続したケアを行うことができる。

Macmillan nurseへの依頼はGP、District Nurseからはもちろんのこと、患者さん本人や家族からも直接依頼をすることができる。そしてMacmillan nurseはNHS(National Health Servise:イギリスの国民医療サービス)の一部としても働いているので、もちろん無料でこれらのサービスは受けられる。

ほかにもMacmillan nurseの仕事として、看護学生、看護師、医師やそのほかの職種への緩和ケアの教育も含まれている。

Macmillan cancer relief のWebsite より)

・・・と前置きが長くなってしまったのですが・・・。

私はこのMacmillan nurse:ヘレン(仮名)と一日一緒に行動させてもらった。
Macmillnan nurseのオフィスで待ち合わせ、そこからヘレンの車に乗り、患者さんの訪問に同行させてもらった。

1件目の訪問先はヘレンが継続して関わっているジーン(仮名)のお宅。
ジーンは60代の女性で、昨年癌と診断され、化学療法、放射線療法と一通りの治療を受け、症状も落ち着いているので自宅で静養中。しかし、最近痛み、呼吸困難が出現、それにとも麻薬が処方されたが、その副作用のため便秘に悩まされている。血液検査で血中のカルシウムの上昇がみられ、その痛みの出現はどうも骨転移らしいのだが、骨シンチ検査を受けるのに最低でも3週間待ちと言われ、いまだにいつ行われるかもはっきりしていない。
(なんでもかんでも待たされるのはイギリスの医療の悪い面。)

ヘレンはジーンに最近の症状、そして前回の医師の診断時どのように説明されたかを聞いていた。(もちろんヘレン自身は医師からの手紙をもらっているのですでに内容は知っているがジーン自身がどのように受け止めているかを知るためにあえて聞いている)

呼吸困難感に関しては、GPから処方されたOramorph(経口のモルヒネシロップ)をもっと摂取してはどうかと勧めた。しかしジーンは握力が弱く、衰弱もしているのでOramorphのボトルのふたが開けられないからあまり摂取していなかった。(ふたは小児が誤ってあけてしまわないように強く押しながらふたを回さないと空かないようになっている)ヘレンは同居している息子さん(彼は介護にはほとんどノータッチで、つい最近までジーンにご飯を作ってもらっていたという)へ朝起きたらOramorphのビンのふたを空けて置くようにアドバイスしていた。
便秘についてもジーンのGPへ電話連絡し、下剤の処方を依頼。(Macmillan nurseはくすりの処方はできない)

そして日常生活でこまっていることはないかチェック。長距離の移動が困難になってきたことから、ヘレンはRed Cross(赤十字)へ連絡。車椅子の貸し出しを依頼した。

またジーンの娘さんへ電話で連絡し、最近の状況やこまっていることはないか、そして今回の訪問の内容を伝えてジーンの家を後にした。このようにヘレンは3・4週間に1回くらいの割合でジーンを訪問、毎週電話でコンタクトをしているそう。ジェーンのかかりつけ医であるGPが主となってジーンをみているのだが、ヘレンは主に緩和ケアにおいてのサポートをGPと相談・アドバイスをしつつ関わっているそうだ。

次にヘレンが訪問したのは新規の依頼の患者さん、ペギー(仮名)。ペギーは癌と診断され放射線治療中。最近モルヒネカプセルの内服を開始したが、疼痛コントロールがうまくいっていないらしい。
まずはペギーと娘さん夫婦にヘレンは自己紹介。自分の役割を説明。
そしてペギーの普段の生活の様子や家族のことを雑談を交えつつ話ながら情報収集。それから痛みの状況、薬の効き目、頓服の痛み止めの使用頻度、その効果・・・。そして頓服の痛み止めをもっと積極的にとってみてはどうか、そしてその状況に応じて定期内服のモルヒネカプセルの量を調節しようなど、アドバイスをしていた。
そしてまた連絡すること、困ったことが合ったら連絡をするようにと連絡先をおいて部屋を出た。
玄関先で見送りに出てきた娘さんからも、ペギーの普段の様子をヘレンは情報収集していた。

このようにMacmillan nurse達は患者さんの家に訪問したり電話することにより、緩和ケアのスペシャリストとして在宅のサポートをしている。

また午後からはこの地域のGPの診療所で緩和ケアの必要な患者についてのケース・カンファレンスがあるのでヘレンともう一人のMacmillan nurseについていった。
カンファレンスで話し合われた患者さんの数は8人。その中には既にMacmillan nurseが関わっている人、まだか変わっていない人もいた。カンファレンスに出席していたのはその診療所のGPたち(4人)、District nurse、Auxiliary nurse(補助看護師)、その診療所で研修中の医学生、そしてMacmillan nurse。

カンファレンスで話し合っている患者さんで名前を聞いて「どっかで聞いたことあるような・・・」と思ったら昨日まで私のホスピスに入院していた患者さん、アラン(仮名)だった。アランは癌ではなく、進行性の神経疾患でレスパイトケアで数ヶ月おきにホスピスに毎回1週間入院している。
アランの症状はここ数ヶ月悪化してきており、数ヶ月以内にターミナルケアに移行するだろうと思われていた。
アランはレスパイトケアでホスピスへ来るのはかまわないが死ぬのは家でと考えている。そのため在宅でのターミナルケアについての必要が迫ってきていた。
私は見学者のつもりだったのだけど、アランのGPからホスピスの緩和ケアコンサルタントからどのような説明がいっているのか、ホスピスでのアランの様子を聞かれ、いつのまにかカンファレンスに参加していた・・・。
アランの今後の方針としてGPが12 weeks letter(詳しくはPalliative care teamのコラムを参考)を書き、アランに必要なケアラーの確保をすること、妻のサポートなどしていくことになった。

こうして地域のGP、District nurseたちとケースカンファレンスを持つことで、Macmillan nurseたちは患者さんの情報の交換、緩和ケアに関するアドバイス・知識の提供、GP、District nurseたちと交流を図り、チームとして良い関係を築いてゆくことができるという。
このケースカンファレンスは月1回を目標に行っているそう。


かかりつけ医であるGPも緩和ケアの知識が豊富な人、そうでない人もいる。いくらかかりつけ医といっても医師として全ての疾患においてパーフェクトな知識があるというのも無理な話ではないだろうか。こうして緩和ケアのスペシャリストであるMacmillan nurseが関わりサポート、アドバイスすることで、在宅において良い緩和ケアを提供することができるのではないかと思う


走る余談
このMacmillan nurseの訪問のお願いを電話でしたのだけど、アポイントメントをとるのになんと1ヶ月以上かかった。3箇所のMacmillan nurseのオフィスへアポイントメントの連絡をするが、何度メッセージを残そうが降り返し連絡はないわ、スタッフ不足で忙しい、チームリーダーがいないからまた電話してくれ等など・・。その間かけた電話は数え切れず、じつはイスタンブールの旅行中も国際電話でこのアレンジのために電話していた。
やっとの思いでとれたアポイントメントだったので、日程に無理が利かず、朝8時に夜勤終了し、Macmillan nurseを訪問し、四時すぎに家に帰り、また9時から夜勤をするというハードスケジュールになってしまった。まるでゾンビの如く・・・。しんどかったけど、その後5晩夜勤もこなした。
まだまだ自分の身体も若いな、と実感した笑顔