前回のコラムに書いたNHSホスピタルのAcute Haematology and Oncology ward訪問に引き続き、私の訪問第3弾はNHSホスピタルの中の緩和ケアチーム(Palliative care team)。
この緩和ケアチームは緩和ケア専門看護師(Clinical palliative care specialist nurse)をチームリーダーとした院内の緩和ケア専門チーム。チームメンバーも緩和ケア専門看護師たちで構成されていた。
この日は合計5人の緩和ケア専門看護師が勤務していて、2チームに分かれ院内からの新規依頼の患者さんや緩和ケアチームが継続して関わっている患者さんの情報交換・今後のプランなどのカンファレンスを行い、それぞれの担当患者の元へ向っていった。
私はその緩和ケア専門看護師の一人、ジェーン(仮名)とともに一日行動した。
まずは老人専門病棟へ。本日新規で依頼を受けた患者さんを訪問。
この患者さん:ジョージ(仮名)の病名は悪性腫瘍ではなく、慢性心不全。しかし、かなり状態も悪くなっており、ここ2ヶ月で三回も入院・退院を繰り返していた。心機能もかなり低下し、既に積極的な治療の段階ではなく、予後ももう長くないだろうという状態なのだが、本人が家に帰ることを希望しているというため、緩和ケアチームへ依頼がきたのだ。なんとジョージの退院予定日は明日に設定されていた。(NHS病院は病床の関係で治療の必要ない患者を早く退院させたいらしい・・・)
ここからのジェーンの働きは素晴らしかった。
病棟へつくと担当看護師と医療診療記録から情報収集。病状、日常生活行動がどの程度可能なのか、どの程度の介助が必要かをチェック。
そして患者さんの元へ。まず、ジョージに自己紹介。そして家に帰りたいという意思の確認。
ジョージは酸素吸入はしていないものの、少しの労作時でも呼吸困難が現れ、ほとんどベット上で過ごしているような状態。一日中うつらうつらと寝ることはあっても、夜は安眠できず、身体のむきを変えたり、排尿、飲み物、など介助が必要だという。しかし、奥さんも高齢であり、ジョージを一人で家で見るのは無理があるようだ。
ジェーンは本人に許可を得て、オフィスにもどり奥さんに電話連絡。そして奥さんにもジョージが家に帰ることを同意しているのか確認。奥さんの介護状況を聞き一旦電話を切る。
その後、ジョージの訪問看護師(District nurse)、ソーシャルワーカーへ連絡。そして今までの情報収集。
ジェーンは奥さんは高齢ではあるものの、日中のみであれば何とか介護は可能であると判断。そのため、夜間は奥さんにゆっくり寝てもらうため、夜から朝までついて介助してくれるケアラーを派遣するという方針をたてた。
まず、ソーシャルワーカーへ電話連絡。ソーシャルワーカーにジョージの介護に使える資金を確認し、ケアラーを派遣を依頼。
そしてジョージの主治医へも連絡。通称「12 weeks letter」と呼ばれる「予後12週間以内」という診断書を書いてもらうよう依頼。この「12 weeks letter」があると、ジョージのような在宅介護に必要な資金の限度額がかなり拡大されるらしい。
まもなく、ケアラー派遣会社から電話が入り、明日の夜からケアラーの派遣が可能との返事。夜9時から朝8時までのケアラー派遣で同意。夜寝る準備から、夜間の介護、朝の着替え等の介助もケアラーにしてもらえることになった。
ジェーンは病棟にもどり、ちょうどジョージと面会に来ていた奥さんに夜間ケアラー派遣の説明をし、2人ともこの案に同意。
さらに、ジェーンは家のつくり、ベットや椅子、トイレ、シャワーなどの状況を聞き、椅子の高さ調節が必要と判断し、作業療法士(Occupational therapist)へ連絡。
そうこうしている間にジェーンのポケベルが鳴りオフィスへ戻ると、ジョージへ派遣予定のケアラーから連絡があり、病状、必要な介護状況を説明。
またジョージの訪問看護師とGPへも明日退院と夜間ケアラー派遣を報告。
病棟看護師へ在宅看護へ移行するための申し送り用紙の記入を依頼。
こうしてジェーンは明日退院の患者さんの在宅介護のセッティングを完了したのでした。
ジョージの病状も思わしくないため、一日でも早く家に帰してあげたい、そしてNHSホスピタルの病床不足から一日でも早く退院しなければならない状況。限られたわずかな時間だったが、テキパキと電話連絡、病棟訪問、をしセッティングしていったジェーンの働きぶりに感動してしまった。
その後、ジェーンは私が前回訪問したAcute Haematology and Oncology wardに入院中の患者さんを訪問。白血病で化学療法終了後の患者さん:サラ(仮名)のもとへ。サラは化学療法はもう適応ではない段階にきているようで、継続的に緩和ケアチームが関わっていた。サラは退院か、ホスピスへ転院するかの選択のときにきていた。
ジェーンはベットサイドに座り、サラと話し始めた。彼女の症状、家族のこと、家に帰りたいか、これからのこと、ホスピスをどう思うか・・・・。
サラは家には帰りたいが家族が介護できるとは思わない。ホスピスへ行くのがベストの選択だと思うという。
ジェーンはサラの家族のすむ場所に近いホスピスの名前を挙げ、そこへ依頼することを約束し、病室を後にした。
ジェーンはさらに医療診療記録と投薬チャートをチェック。先程きいた彼女の症状(痛み、吐気)の対処のためのアドバイスを医療診療記録に記入し、サラの担当看護師へ報告した。
前回のコラムにも書いたが、緩和ケアチームの専門看護師たちは薬の処方は現時点ではできないことになっている。そのため、実際に処方するのは医師となる。医師も緩和ケアチームのアドバイスを参考に処方をしていく。
ジェーンは緩和ケアチームの一員の緩和ケア専門看護師として院内からのこうした依頼に応じる仕事をしながら、週に1回老人病棟でスタッフナースとしても働いているという。
緩和ケアチームへの依頼の多い老人病棟で実際に働くことにより、病棟スタッフとの連携を図る、病棟スタッフ間にある問題点を見つける、病棟スタッフへ緩和ケアに関する知識の提供、そしてジェーン自身の看護師としての臨床技術の維持のために役立てている。
日本にもこういった院内緩和ケアチームはあるのか調べてみた。Googleで検索してみたら、緩和ケアチームを持つ病院はいくつかあった。
日本では2002年から緩和ケアチームが保険診療点数の対象とされているそうだ。
そして平成17年2月現在のホスピスケア認定看護師登録者は全国で100人。
私はこの緩和ケアのコースの課題の一つのエッセイで「緩和ケアにおけるチームワーク」をテーマに選んだ。Acute Haematology and Oncology ward、緩和ケアチーム、そしてこの次に訪問したMacmillan nurse service、他のホスピスの訪問を通して良い緩和ケアの提供のためにはチームでのアプローチが必要不可欠だと思ったから。
また、Macmillan nurse service、他のホスピスの訪問の様子をブログに書いてからまとめとして、その「緩和ケアにおけるチームワーク」について書こうと思います。しかし、ご存知の通り、私のこのブログの更新はスローなので気長にお待ちを。
この緩和ケアチームは緩和ケア専門看護師(Clinical palliative care specialist nurse)をチームリーダーとした院内の緩和ケア専門チーム。チームメンバーも緩和ケア専門看護師たちで構成されていた。
この日は合計5人の緩和ケア専門看護師が勤務していて、2チームに分かれ院内からの新規依頼の患者さんや緩和ケアチームが継続して関わっている患者さんの情報交換・今後のプランなどのカンファレンスを行い、それぞれの担当患者の元へ向っていった。
私はその緩和ケア専門看護師の一人、ジェーン(仮名)とともに一日行動した。
まずは老人専門病棟へ。本日新規で依頼を受けた患者さんを訪問。
この患者さん:ジョージ(仮名)の病名は悪性腫瘍ではなく、慢性心不全。しかし、かなり状態も悪くなっており、ここ2ヶ月で三回も入院・退院を繰り返していた。心機能もかなり低下し、既に積極的な治療の段階ではなく、予後ももう長くないだろうという状態なのだが、本人が家に帰ることを希望しているというため、緩和ケアチームへ依頼がきたのだ。なんとジョージの退院予定日は明日に設定されていた。(NHS病院は病床の関係で治療の必要ない患者を早く退院させたいらしい・・・)
ここからのジェーンの働きは素晴らしかった。
病棟へつくと担当看護師と医療診療記録から情報収集。病状、日常生活行動がどの程度可能なのか、どの程度の介助が必要かをチェック。
そして患者さんの元へ。まず、ジョージに自己紹介。そして家に帰りたいという意思の確認。
ジョージは酸素吸入はしていないものの、少しの労作時でも呼吸困難が現れ、ほとんどベット上で過ごしているような状態。一日中うつらうつらと寝ることはあっても、夜は安眠できず、身体のむきを変えたり、排尿、飲み物、など介助が必要だという。しかし、奥さんも高齢であり、ジョージを一人で家で見るのは無理があるようだ。
ジェーンは本人に許可を得て、オフィスにもどり奥さんに電話連絡。そして奥さんにもジョージが家に帰ることを同意しているのか確認。奥さんの介護状況を聞き一旦電話を切る。
その後、ジョージの訪問看護師(District nurse)、ソーシャルワーカーへ連絡。そして今までの情報収集。
ジェーンは奥さんは高齢ではあるものの、日中のみであれば何とか介護は可能であると判断。そのため、夜間は奥さんにゆっくり寝てもらうため、夜から朝までついて介助してくれるケアラーを派遣するという方針をたてた。
まず、ソーシャルワーカーへ電話連絡。ソーシャルワーカーにジョージの介護に使える資金を確認し、ケアラーを派遣を依頼。
そしてジョージの主治医へも連絡。通称「12 weeks letter」と呼ばれる「予後12週間以内」という診断書を書いてもらうよう依頼。この「12 weeks letter」があると、ジョージのような在宅介護に必要な資金の限度額がかなり拡大されるらしい。
まもなく、ケアラー派遣会社から電話が入り、明日の夜からケアラーの派遣が可能との返事。夜9時から朝8時までのケアラー派遣で同意。夜寝る準備から、夜間の介護、朝の着替え等の介助もケアラーにしてもらえることになった。
ジェーンは病棟にもどり、ちょうどジョージと面会に来ていた奥さんに夜間ケアラー派遣の説明をし、2人ともこの案に同意。
さらに、ジェーンは家のつくり、ベットや椅子、トイレ、シャワーなどの状況を聞き、椅子の高さ調節が必要と判断し、作業療法士(Occupational therapist)へ連絡。
そうこうしている間にジェーンのポケベルが鳴りオフィスへ戻ると、ジョージへ派遣予定のケアラーから連絡があり、病状、必要な介護状況を説明。
またジョージの訪問看護師とGPへも明日退院と夜間ケアラー派遣を報告。
病棟看護師へ在宅看護へ移行するための申し送り用紙の記入を依頼。
こうしてジェーンは明日退院の患者さんの在宅介護のセッティングを完了したのでした。
ジョージの病状も思わしくないため、一日でも早く家に帰してあげたい、そしてNHSホスピタルの病床不足から一日でも早く退院しなければならない状況。限られたわずかな時間だったが、テキパキと電話連絡、病棟訪問、をしセッティングしていったジェーンの働きぶりに感動してしまった。
その後、ジェーンは私が前回訪問したAcute Haematology and Oncology wardに入院中の患者さんを訪問。白血病で化学療法終了後の患者さん:サラ(仮名)のもとへ。サラは化学療法はもう適応ではない段階にきているようで、継続的に緩和ケアチームが関わっていた。サラは退院か、ホスピスへ転院するかの選択のときにきていた。
ジェーンはベットサイドに座り、サラと話し始めた。彼女の症状、家族のこと、家に帰りたいか、これからのこと、ホスピスをどう思うか・・・・。
サラは家には帰りたいが家族が介護できるとは思わない。ホスピスへ行くのがベストの選択だと思うという。
ジェーンはサラの家族のすむ場所に近いホスピスの名前を挙げ、そこへ依頼することを約束し、病室を後にした。
ジェーンはさらに医療診療記録と投薬チャートをチェック。先程きいた彼女の症状(痛み、吐気)の対処のためのアドバイスを医療診療記録に記入し、サラの担当看護師へ報告した。
前回のコラムにも書いたが、緩和ケアチームの専門看護師たちは薬の処方は現時点ではできないことになっている。そのため、実際に処方するのは医師となる。医師も緩和ケアチームのアドバイスを参考に処方をしていく。
ジェーンは緩和ケアチームの一員の緩和ケア専門看護師として院内からのこうした依頼に応じる仕事をしながら、週に1回老人病棟でスタッフナースとしても働いているという。
緩和ケアチームへの依頼の多い老人病棟で実際に働くことにより、病棟スタッフとの連携を図る、病棟スタッフ間にある問題点を見つける、病棟スタッフへ緩和ケアに関する知識の提供、そしてジェーン自身の看護師としての臨床技術の維持のために役立てている。
日本にもこういった院内緩和ケアチームはあるのか調べてみた。Googleで検索してみたら、緩和ケアチームを持つ病院はいくつかあった。
日本では2002年から緩和ケアチームが保険診療点数の対象とされているそうだ。
そして平成17年2月現在のホスピスケア認定看護師登録者は全国で100人。
私はこの緩和ケアのコースの課題の一つのエッセイで「緩和ケアにおけるチームワーク」をテーマに選んだ。Acute Haematology and Oncology ward、緩和ケアチーム、そしてこの次に訪問したMacmillan nurse service、他のホスピスの訪問を通して良い緩和ケアの提供のためにはチームでのアプローチが必要不可欠だと思ったから。
また、Macmillan nurse service、他のホスピスの訪問の様子をブログに書いてからまとめとして、その「緩和ケアにおけるチームワーク」について書こうと思います。しかし、ご存知の通り、私のこのブログの更新はスローなので気長にお待ちを。

日本だとなかなか「在宅」というのは難しい事情があるように思います。たまたま私の受け持っていた方の中には「家では大変で、ちょっと家族に休憩を」とレスパイトのはずだったのにそのままずるずると・・・そして気がつけば、さらに帰宅困難になってしまう。
「看護婦さんも親切だし不満はない、家に帰っても痛くなったら、何かあったらと思うと怖いし、家族も大変だ。すぐに誰か来てくれるここでいい」というご意見。
看護師の質を認めてもらえるのは嬉しいけど、本当によかったのかな?と思ったりしました。在宅第一!!なんていいませんが、症状コントロールが出来ていて、緊急時の対応もカバーできるなどの条件がクリアされても「ここ(病院)がいい」と言ってくださるか?
中には在宅を希望するご本人やご家族の意思がマッチして・・・ということもありますが、なかなか難しいのが現状では?
訪問看護が最近では進んできていると思うので、今後の在宅緩和も展望が明るいと思います。それでも本人・家族の不安を軽くするというのはなかなか一朝一夕にはできなさそうです。
今回のレポートを読ませていただいて、なかなかJANEのようにはいかないかもしれないけど、少しずつ在宅緩和ケアの認知度が高まり、介護支援制度などのソースが整い患者・家族にも不安なく受け入れられる時が来るといいなあ、と思いました。
しかし、それをテキパキと判断しコーディネートするJANE、カッコいいですね。