これは何ヶ月か前の話。
真夜中だった。突然ものすごい叫び声がホスピスに響き渡った。明らかに隣の病棟から聞こえてきた。声のしたほうへ行ってみた。
「ジョンの寝言なのよ・・・」とその病棟で勤務していた看護師は言った。
ジョン(仮名)は7X歳の男性。記憶は定かでは無いが、たしか大腸癌だったと思う。疼痛、嘔吐などの症状のコントロール目的で入院していた。
それにしてもかなりの声だった。ジョンの部屋は個室でその病棟の一番奥に位置しているのに、隣の病棟まで聞こえた。
ジョンは悪夢に時々うなされるのだが、内容は一切スタッフには教えてくれなかった。ようやく教えてくれたのは、その悪夢にジョンは何十年もうなされている、だからどうしようもないのだ、ということだった。
悪夢を見たあとのジョンはとても暗く落ちこんでいる。普段はお喋り好きでユーモアのある人なのに・・・。
私のことをチャイニーズガールと呼ぶが寝る前には彼の知っている唯一の日本語「サヨナラ」といつも言ってくれた。
スタッフとジョンで話し合い、TemazepamとHaloperidolを就寝前に内服してみることになった。
しかし、悪夢は再びジョンの睡眠を妨げた。
ようやく、ジョンは重い口をスタッフに開いてくれた。
彼の見る悪夢とは戦争の夢だった。ジョンは世界大戦の頃、戦場で何人もの人を殺したのだと言う。たくさんの仲間も失ったという。その本人の身体にも大きな銃創があった。
戦後からずっとその夢にジョンは悩まされつづけていた。
本人はそれ以上夢についてはほとんど話したがらなかったため、夜間セデーションの量を増やし、安眠を確保できるようにしていった。
しかし、徐々にジョンの全身状態は悪化していき、覚醒しているときのジョンは絶えず落ち着きが無くなり、ベットから身を乗り出したり。車椅子に座っては一箇所にとどまっていられず。
「Please help me, please help me....」と看護師の手をとって懇願するジョン。
病棟看護スタッフだけでなく、家族のサポート看護師、牧師もジョンと関わりを持った。彼を何十年も苦しめてきた戦争の悪夢とのかかわりもあり、本人も積極的には口にしたがらなかった。
このようなケースでは関わりがとても難しく感じた。
そしてOxyNorm(Oxycodone), Midazolam, LevomepromazineをSyringe Driverで持続皮下注開始された。ジョンが落ち着くまでは投与された薬品はかなりの増量が必要だった。そのくらい彼の苦痛は大きかった。
ジョンは数日後、投与された薬品により穏やかに悪夢に悩まされることなく眠るようになくなった。
ジョンの訴える苦痛はPhysical Pain(身体的な苦痛)というより、Psychological Pain(精神的な苦痛)、Soul PainまたはSpiritual Pain(霊的な苦痛)であったように思う。
このあいだ他のホスピスのSymptom managementの講習会にいってきた。講習会の最後のセッションでそこのホスピスで働くChaplain(牧師)がSoul Painについて話してくれた。

Palliative CareにおいてSoul Pain / Spiritual Painは死に行く患者がしばしば経験することで、主に次の2つの分野で苦痛を感じる。
・Life History
-やり終えていない事柄、過去に壊れてしまった人間関係、癒されていない傷、後悔、罪の意識、
許し・和解・調停を必要としている
・The individual in relation to his/her own death
-死滅・消滅への恐怖、信仰、神
どのように症状は表現されるか?
・Open
-Chaplainに”I want you to help me find peace before I die"と訴えたケース
・Veiled
-身体的症状:呼吸困難感、胸部痛、不眠などを訴えたケース。
どのように関わるか?
・聞く
時間をかける。ごまかさない。避けない。きっかけ・患者の訴えのヒントをつかむ。
・それらのことをよくすること・正しい方向へすることができないことも認める
しかし、それについて話すことが患者にとって助けとなることもある
・前向きなこと、何が出来るかをみつける
eg.家族関係において:メモリーボックスの作成。(残される家族へ患者の思い出として残す)
疎遠になっていた家族への連絡。
個々に:余暇を楽しむものを提供。宗教的な儀式、懺悔、お葬式の計画
(By Rev.J Davies at DOKH)
Soul Painはそれぞれの患者により根本にあるものが違い、表現のされかたが違うのでそれに対する関わり方も個別性が要求される。日本人とイギリス人の感じるSoul Painはまた違った面もあるかもしれない。また宗教が絡んでくると私は無宗教なので理解が難しい。
Soul Pain / Spiritual Painは完全に取り除くことは不可能なのかもしれない。簡単に答えは見つからないものだろう。
だからといってそこでほかっておいたり、あきらめてしまうのではなく、何かできることはないか、患者さんと話したり一緒に悩むことで、一緒に答えを探していくものなのかもしれない。
Soul Pain・・・考えれば考えるほど難しい。
こうして私の勉強はまだまだ続く、というかまだまだこれから・・・。
真夜中だった。突然ものすごい叫び声がホスピスに響き渡った。明らかに隣の病棟から聞こえてきた。声のしたほうへ行ってみた。
「ジョンの寝言なのよ・・・」とその病棟で勤務していた看護師は言った。
ジョン(仮名)は7X歳の男性。記憶は定かでは無いが、たしか大腸癌だったと思う。疼痛、嘔吐などの症状のコントロール目的で入院していた。
それにしてもかなりの声だった。ジョンの部屋は個室でその病棟の一番奥に位置しているのに、隣の病棟まで聞こえた。
ジョンは悪夢に時々うなされるのだが、内容は一切スタッフには教えてくれなかった。ようやく教えてくれたのは、その悪夢にジョンは何十年もうなされている、だからどうしようもないのだ、ということだった。
悪夢を見たあとのジョンはとても暗く落ちこんでいる。普段はお喋り好きでユーモアのある人なのに・・・。
私のことをチャイニーズガールと呼ぶが寝る前には彼の知っている唯一の日本語「サヨナラ」といつも言ってくれた。
スタッフとジョンで話し合い、TemazepamとHaloperidolを就寝前に内服してみることになった。
しかし、悪夢は再びジョンの睡眠を妨げた。
ようやく、ジョンは重い口をスタッフに開いてくれた。
彼の見る悪夢とは戦争の夢だった。ジョンは世界大戦の頃、戦場で何人もの人を殺したのだと言う。たくさんの仲間も失ったという。その本人の身体にも大きな銃創があった。
戦後からずっとその夢にジョンは悩まされつづけていた。
本人はそれ以上夢についてはほとんど話したがらなかったため、夜間セデーションの量を増やし、安眠を確保できるようにしていった。
しかし、徐々にジョンの全身状態は悪化していき、覚醒しているときのジョンは絶えず落ち着きが無くなり、ベットから身を乗り出したり。車椅子に座っては一箇所にとどまっていられず。
「Please help me, please help me....」と看護師の手をとって懇願するジョン。
病棟看護スタッフだけでなく、家族のサポート看護師、牧師もジョンと関わりを持った。彼を何十年も苦しめてきた戦争の悪夢とのかかわりもあり、本人も積極的には口にしたがらなかった。
このようなケースでは関わりがとても難しく感じた。
そしてOxyNorm(Oxycodone), Midazolam, LevomepromazineをSyringe Driverで持続皮下注開始された。ジョンが落ち着くまでは投与された薬品はかなりの増量が必要だった。そのくらい彼の苦痛は大きかった。
ジョンは数日後、投与された薬品により穏やかに悪夢に悩まされることなく眠るようになくなった。
ジョンの訴える苦痛はPhysical Pain(身体的な苦痛)というより、Psychological Pain(精神的な苦痛)、Soul PainまたはSpiritual Pain(霊的な苦痛)であったように思う。
このあいだ他のホスピスのSymptom managementの講習会にいってきた。講習会の最後のセッションでそこのホスピスで働くChaplain(牧師)がSoul Painについて話してくれた。

Palliative CareにおいてSoul Pain / Spiritual Painは死に行く患者がしばしば経験することで、主に次の2つの分野で苦痛を感じる。
・Life History
-やり終えていない事柄、過去に壊れてしまった人間関係、癒されていない傷、後悔、罪の意識、
許し・和解・調停を必要としている
・The individual in relation to his/her own death
-死滅・消滅への恐怖、信仰、神
どのように症状は表現されるか?
・Open
-Chaplainに”I want you to help me find peace before I die"と訴えたケース
・Veiled
-身体的症状:呼吸困難感、胸部痛、不眠などを訴えたケース。
どのように関わるか?
・聞く
時間をかける。ごまかさない。避けない。きっかけ・患者の訴えのヒントをつかむ。
・それらのことをよくすること・正しい方向へすることができないことも認める
しかし、それについて話すことが患者にとって助けとなることもある
・前向きなこと、何が出来るかをみつける
eg.家族関係において:メモリーボックスの作成。(残される家族へ患者の思い出として残す)
疎遠になっていた家族への連絡。
個々に:余暇を楽しむものを提供。宗教的な儀式、懺悔、お葬式の計画
(By Rev.J Davies at DOKH)
Soul Painはそれぞれの患者により根本にあるものが違い、表現のされかたが違うのでそれに対する関わり方も個別性が要求される。日本人とイギリス人の感じるSoul Painはまた違った面もあるかもしれない。また宗教が絡んでくると私は無宗教なので理解が難しい。
Soul Pain / Spiritual Painは完全に取り除くことは不可能なのかもしれない。簡単に答えは見つからないものだろう。
だからといってそこでほかっておいたり、あきらめてしまうのではなく、何かできることはないか、患者さんと話したり一緒に悩むことで、一緒に答えを探していくものなのかもしれない。
Soul Pain・・・考えれば考えるほど難しい。
こうして私の勉強はまだまだ続く、というかまだまだこれから・・・。