イギリスではクリスマスは日本のお正月みたいなもの。
家族で集まってご馳走を食べて、プレゼントを交換する。
9月、10月ごろから準備し始める人だっている。
イギリス人にとってクリスマスはとっても大切な日なのだ。

クリスマス、そして翌日のボクシングデーは休日なので公共サービスはお休みだし、働きたくない人もいっぱい・・・。

そんなイギリスのクリスマス直前のホスピスは大忙し。
かかりつけ医や訪問看護師からの患者さんの入院依頼が殺到する。
FAXは休むまもなく受信をつづけ、電話もひっきりなし・・・。

クリスマス休暇中はかかりつけ医の診療所はもちろん閉まる。
当直システムでその地域の当直医が対応することになるが、ここイギリスでは迅速な対応は期待できない。
万が一、麻薬が必要になったり、ほかの薬が必要になった場合にも速やかに手に入らない可能性も出てくる。

そのため、状態のあまりよく無い患者さんはかかりつけ医や訪問看護師がこぞって入院依頼をしてくる。

しかし・・・
クリスマスはとっても大切な日。
クリスマスを家で過ごすために退院する患者さんもいるくらい。
患者さんにとっては最後のクリスマスになる可能性が高い。
多少ムリしてでも家でクリスマスを過ごしたい患者さんやその家族は結構いる。

そのため、入院依頼はたくさん来るものの、実際クリスマス前に入院してくるのはターミナルケアの患者さんばかり。しかも予後も数日くらい・・・。

入院依頼はあったけど、ほとんどの患者さんは家でクリスマスを過ごし、クリスマス明けにすぐに入院というケースが多い。

クリスマスを家で迎えるというのがひとつの節目のようになっているのか、クリスマス後のホスピスは忙しくなることが多い。

イギリス人にとってクリスマスというのはとても重要なものなのだと実感させられる。



「クリスマスの日だけには亡くなって欲しくない」
という患者さんの家族も結構いる。
家族みんなで楽しいはずのクリスマスが悲しい日へとなってしまうからだそう。
そんな願いもとどかず、クリスマスに亡くなる患者さんはいる。



また数年前のクリスマス・イブにこんなことがあった。
かかりつけ医(GP)から緊急でターミナルケアの患者さんを受け入れて欲しいと連絡があり、受け入れることになった。
救急車が到着し、ストレッチャーで運ばれてきた患者さん。
ベットに移そうとすると「トイレに行きたい!」と患者さん。
なんとストレッチャーからムクッと起き上がり、すたすたとトイレに歩いていった・・・。

ターミナルケアとはもちろん、終末期のケア。
死が目前に迫っている患者さんのケア。

どう見ても、この患者さんはターミナルではない・・・。
何かの間違いでは???と思ったけど、すぐに謎が解けた。

この患者さん、ひどい認知症だった・・・。
徘徊、そして攻撃的な行動。

クリスマス時期でこの患者さんの介護に手を焼いた家族とかかりつけ医がつるんで「ターミナルケア」と偽って送り込んできたのだった。
この後、ホスピスの緩和ケア専門医からこのかかりつけ医と家族にお小言があり、翌日退院していただいた。




またホスピスで働くスタッフのクリスマスも特別だ。
クリスマスの音楽をかけ、クリスマスデコレーションのアクセサリーをつけて仕事をする。
みんなバリバリ働き仕事を早めに終わらせる。
(普段からそうやって働いてもらいたいものだ・・・。)
そしてみんなでお茶を飲みながらもちよったお菓子やを食べて、食べて、食べまくる・・・。
それでも看護師のオフィスにはまだまだ山のようにお菓子がある。

クリスマス後にダイエットに励むイギリス人が増えるのもうなずける・・・。