先日、ホスピスに3年近くレスパイトケアで何度か入院をしていた70歳代の患者さん、ジョージ(仮名)が亡くなった。
ジョージの病気は癌ではなく、MND:Motor Neuron Disease(運動ニューロン疾患、筋萎縮性即索硬化症、進行性球麻痺、原発性即索硬化症などの総称)で治癒の見込みのない全身の筋肉が萎縮していく疾患だった。

以前にもブログに書いたことがあるがイギリスのホスピス・緩和ケア病棟は入院対象を癌の患者さんだけに限らず、WHO(世界保健機関)の定義にもあるように進行性の治癒不可能な疾患(advanced progressive and incurable disease)、生命が脅かされている疾患(life-threatening illness)としている。
たとえば、クロイツフェルトヤコブ病、運動ニューロン疾患、パーキンソン病、アルツハイマー、進行性核上性麻痺、他系統萎縮症など、心不全や慢性呼吸不全の末期状態にある患者さんも受け入れている。

レスパイトケアとはいわゆる短期入所のような感じでケアをしている家族のための休養、ホリデーや用事があって患者さんのケアができないときに、ホスピスに1・2週間入院してもらう。

ジョージは年に3・4回レスパイトケアでホスピスに毎回1・2週間ずつ入院していたので私たちホスピスのスタッフとはすっかり顔なじみになっていた。
手は少し動かすことができていたが、自分で身体を動かすことができないので日常生活にすべての面において介助が必要だった。

約2年前、ジョージはホスピスの庭で結婚式を挙げている。
ジョージには婚約者がいたが、この病気が発症してしまったために一時は結婚をあきらめかけていた。
しかし、婚約者の理解もあり、ファミリーサポートの看護師も間に入り、話し合った結果、二人は結婚を決めた。
車椅子に乗ったジョージと婚約者さんはホスピスの庭で結婚式をあげた。
「おめでとう」いったら照れたような、嬉しそうな表情だった。

(私の働いているホスピスの庭はとても広くて、パーティーや結婚式に一般にも開放している。)

結婚後も奥さんの里帰りや休息のためにレスパイトケアでホスピスに年に何度か1・2週間ほど入所していた。
「レスパイトケアでホスピスに入所するのはいいけど死ぬときは家で」
というのがジョージの希望だった。

ジョージのかかりつけ医(GP)もジョージの希望をよく理解していた。私はたまたまジョージのかかりつけ医の診療所の緩和ケアの必要な患者のカンファレンスに出席したことがあるのだが、高齢の妻との二人暮し、24時間のケアが必要とあって、ジョージの在宅ケアのための費用の工面に苦労していた。
通称「12 weeks letter」と呼ばれる余命が12週間以下である患者のための在宅ケアの費用の確保のための手続きがある。ジョージもこの12 weeks letterをGPが書くことになったのだが、人の余命なんてはっきりとはわからない。実際にはジョージはGPがこの12 weeks letterを書いてから亡くなるまで約1年だったので、なんどか手続き更新をした模様。

しかし・・・
筋力の低下が進み、呼吸にも支障をきたし始めたジョージはレスパイトケアでホスピスに入院した後、家に帰ることはなくホスピスで亡くなった。
ジョージの奥さんも高齢であり、またプライバシーを重視していた二人はケアラーが家に常在するのも断っていたために家で看取るのはいろいろ問題があった。

家で最期を迎えることはできなかったものの、最期は安らかだったとほかのスタッフから聞いた。
ジョージは結構個性的なキャラクターで、憎めないかんじの患者さんだった。スタッフみんなジョージの死を悼むとともに、彼にまつわる思い出を語り合った。