ご飯を作っていたときにチラッと聞いただけだったので、後で詳しくインターネットで見てみようと思っているうちに、今日になってしまった・・・。

先週、BBCニュースで末期患者のための安楽死、自殺補助の法案について議論されていたが、House of Lords(イギリス議会の上院)により、法案は否決された。
Lords block assisted dying bill (BBC NEWSより)

現在の法律ではイギリス国内では安楽死、自殺補助は違法に当たる。
しかし、イギリスでは治癒の見込みのない疾患の末期状態にある患者さんが死を選択し、合法化されているスイスへ行き、自殺補助を受けて亡くなるケースを何度か聞いた事がある。
しかし、この場合は費用はすべて自己負担となるためにある程度の経済力がないとできない。

こちらの記事では進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy)という治癒の見込みがない退行性神経疾患におかされた母親をスイスで看取ったという息子さんの話が出ている。
この記事の中で息子さんは「もし母がスイスへ行かなかったら、何年も何ヶ月も病気が彼女を殺すまで死を待つだけの惨めな・不幸な生活を送らなければならなかっただろう」といっている。そして最後に「私たちは彼女のことをとても誇りに思う」と。

ほかにも、雑誌で似たようなケースを読んだことがある。治癒の見込みがない神経疾患の末期の奥さんの死にたいという願いをかなえるため、救急車、飛行機を手配し、Nursing Homeから奥さんを連れ出し、スイスへ送った旦那さんの手記が載っていた。奥さんをスイスに送ったが同行はせず、イギリスの自宅で奥さんが安らかに息を引き取ったというFaxをうけとったという。
この旦那さんによると、後日警察から誘拐と自殺補助の疑いで取調べを受けたという。しかし、スイスには同行しておらず、罪には問われなかったとか・・・。
この旦那さんも奥さんを亡くした悲しみはあるものの、スイスへ送ったことを後悔はしていない、彼女の望む安らかな死を迎えたこと、身体を動かすことができずただ死を待つだけの生活から救うことができたことに安堵していた。

私もホスピスでたくさんの患者さんを看てきた。自殺のためにスイスへ向かった患者さんと同じ疾患をもつ患者さんも何度も受け持ったことがある。
治癒の見込みのない神経疾患の末期の患者さんは思考能力に問題がないが身体はまったく動かせず、全身の筋力が低下していく。

また前回の夜勤で卵巣がんの末期の患者さんに
「私の命を終わらせる注射を打って・・・」と頼まれた。
真夜中、静まり返った病室で、眠れない患者さんはたとえ身体的な苦痛がなくともさまざまな不安、苦しみに押しつぶされそうになっているのではと思うことがある。
「ごめんなさい、そういう注射を投与することは違法なんですよ・・・」というと
「やっぱりそうよね、でももうこの先何もないの。ただ(死を)待つだけでしょう?」と。
ベットサイドで話を聞き、夜も長いし、今はとりあえず眠りたいということで朝まで眠れるようにとMidazolam(ドルミカム)を皮下注射することで同意した。そしてその患者さんは朝まで眠っていたが・・・。

私がもし、治癒の見込みのない疾患の末期だったら。
死を願うかもしれない・・・・。

私は安楽死、自殺補助に反対はしていないし、医療の限界もあると思っている。すべての疾患が治せるわけではない。治せない疾患もある。
治癒不可能な疾患になり、死を待つだけの生活という心理状態になれば、安楽死、自殺について考えるのは人間の心理として自然な流れなのかもしれない。

しかし、このニュースを見て思ったのは”ちょっとまって、ここはイギリス!”

安楽死や自殺補助について議論する前に議員たちに問いたい
イギリスの医療が完璧に行われていると思うのか?!
スムーズに検査・治療が受けられない状況でどれだけの人が苦しんでいるのか
この医療状況のおかげで癌などの疾患の”末期”になってしまったひとがいるのをわかっているのか
緩和ケアは発展しているとはいえ、緩和ケア・ホスピスを運営している団体の多くはNHS(イギリスの国のヘルスサービス)ではなく、チャリティ団体であることをわかっているのか・・・
チャリティ団体は国からの補助は少しは受けているものの、大部分を人々からの善意・寄付に頼っている。チャリティ運営のホスピスはこれらの善意や寄付無しには運営は不可能。

この今の医療状況のイギリスでこのような法案にGoサインがでるのは非常に危険だと思う。

国として対応すべきところ、財政をつぎ込むところはまだまだたくさんあるのではないかと思う。