ホスピス・緩和ケアというと癌の患者さんのための施設・病棟とイメージしている人が多いかもしれない。実際日本のホスピス・緩和ケア病棟では非悪性疾患の患者さんを受け入れているところはそれほど多くないと思う。

イギリスのホスピス・緩和ケア病棟は入院対象を癌の患者さんだけに限らず、WHO(世界保健機関)の定義にもあるように進行性の治癒不可能な疾患(advanced progressive and incurable disease)、生命が脅かされている疾患(life-threatening illness)としている。

たとえば、クロイツフェルトヤコブ病、運動ニューロン疾患、パーキンソン病、アルツハイマー、進行性核上性麻痺、他系統萎縮症など、心不全や慢性呼吸不全の末期状態にある患者さんも受け入れている。


少し前、Nursing Homeに入所中のMND:Motor Neuron Disease(運動ニューロン疾患、筋萎縮性即索硬化症、進行性球麻痺、原発性即索硬化症などの総称)の患者さん、レイ(仮名)をターミナルケア目的で受け入れて欲しいと依頼が来た。
”かなり状態が悪い”とのことで、すぐに入院の運びとなた。

救急車で転送されてきたレイは・・・・
たしかに状態は悪いが、今すぐ死に直面している状況にあるとはいえない状況であった。

疾患によって首から下が麻痺してしまっているので、指をうごかすことすらできず、日常生活すべてにおいて介護が必要な状況だった。また筋肉の萎縮により、呼吸困難もときおりみられ、食事や水分の飲み込むための筋肉も萎縮してきていたので経口摂取はペースト状のものをゆっくり時間をかけて飲み込んでいくという状況だった。
麻痺のために、ナースコールを押すこともできない。

しかし、レイの思考能力には問題はない。
自分が思っていることをすることができず、すべての介助を他人に頼らなければならないのは身体的のみならず、精神的にも相当な苦痛であると思う。

ホスピスにやってきたレイは”ケアスタッフ不信”だった・・・。

実はレイは入所していたNursing Homeでひどい扱いを受けていたかららしい。

ナースコールが押せないので、叫んでスタッフを呼ぶレイに対してケアラーは黙れ、と怒鳴り返したり・・・・
あげくに
"You are nuisance!"(あんたは厄介な人だ!)といわれたそう。

ケア度が高い患者さんがたくさんいて、ケアスタッフの人数も少なく、一生懸命ケアしようとしても思うようにできず、イライラしてしまうこともあるかもしれない。
でも、ケアスタッフはそのイライラをぶつける矛先を間違えてはいけないと思う。

レイは満足なケアが受けられず、そのような扱いをうけつづけ、すっかりケアスタッフ不信に陥り、ホスピスに避難してくるような形でやってきたのだった・・・・。

ホスピスにレイがやってきて1週間、徐々にスタッフとも信頼関係ができてきたのか、レイは冗談をいって笑ったりするようになった。

しかし、ホスピスがいくら進行性の治癒不可能な疾患や生命が脅かされている疾患を対象にしているといっても、症状のコントロールがついており、落ち着いた状態にある患者さんは退院またはNursing Homeへ転院となる。

レイも状態的には落ち着いているので、そのうちNursing Homeへ転院となる予定。

どうか、いいNursing Homeが見つかりますように・・・。