日本に住む人から

「ホスピスを勧めるということは本人(患者)に”もう助からない”、”もう死ぬ”といっていると同じではないか。それはあまりに酷なことではないか」

そんなことを何度か言われたことがある。


それはやはり、日本の多くの人が持つホスピスのイメージが”ターミナルケア(癌末期のケア)”だからではないかと思う。

ターミナルケアはあくまでホスピスでのケア、緩和ケアの一部に過ぎない。

また日本では緩和ケアと癌治療が切り離されて考えられているからではないかと思う。
緩和ケアと癌治療は切っても切れない縁というか、癌治療の初期段階から症状コントロールとして緩和ケアがもっと関わっていったほうがいいとも思うが・・・。

私はその緩和ケアの症状コントロールにもっと注目してもらいたいと思う。

ホスピスや緩和ケア病棟には癌や進行性の神経・筋疾患などの病気の苦痛に苦しむ患者さん・家族の身体的だけでなく、精神的な苦痛を緩和するスペシャリストがそろっていると思って欲しい。

ホスピス・緩和ケア病棟のスタッフはそれを専門にしているので緩和医療学会などが出している緩和ケアのガイドラインなどの知識もしっかりもっている。
患者さんと家族を中心にしたQOL(クオリティ・オブ・ライフ;生命の質)を大切にしたケアを提供していると思う。

もちろん、一般病棟でも緩和ケアの症状コントロールに積極的に取り組んでいる医療スタッフはいる。けれども、スタッフがどれだけがんばろうと、一般病棟では無理が出てきてしまうことだってある。

現行法による看護職員の人員配置は日本看護協会の2005年11月の資料によると、たとえば病床数が45床(稼働率90%、患者数40名、3交代、2人夜勤)と仮定した場合、看護師は一人で昼間に約10名、夜間に約20名の患者を担当することになるという。

それに比べ、ホスピス・緩和ケア病棟の診療報酬の基準は、患者1.5人に対して看護師1人以上となっている。
(しかし、朝日新聞の調査によると、平均は、患者1.2に対して看護師1人とされ、現場のスタッフからは人手不足で十分なケアができていないとの声もあるとこのと。)

看護師が受け持つ患者の数の違いから見ても、明らかに一般病棟の看護師はあわただしく働いていると思う。この状況では、一般病棟の看護師は患者のベットサイドに座り、あるいは別部屋で患者さんや家族とゆっくり話す時間をもちたくても、持てない状況にあると思う。

また一般病棟とホスピスの違いは、患者中心にケアが進められるということ。もちろん、コレも一般病棟では行われているが、一般病棟では朝の検温が6時、ご飯が何時、消灯が9時、面会時間が何時まで・・・など時間がある程度決められており、そのなかで患者さん、家族はあわせていかなくてはならない。
ホスピス・緩和ケア病棟の場合は結構フレキシブルで、朝、患者さんが遅くまで寝ていたいのなら起こさずにおいたり、ご飯の時間は患者さんに合わせたり、家族の人が料理を作れるキッチンが病棟内にあったり。ペットの面会も許可してくれているところもある。患者さんがタバコやアルコールなどを楽しむことができるところもある。

そして私がホスピス・緩和ケア病棟を勧めたいほかの理由は”家族のため”。
私は患者さんだけでなく、家族にも支えは必要だと考えている。
患者さんが苦しむ姿を見ている家族の苦痛は時に計り知れないものがある。
一般病棟では家族のケアまで行える時間と余裕があるだろうか・・・。やりたくてもできないというのが現状ではないだろうか。

そして患者さんが亡くなった後の家族のサポートも多くのホスピス・緩和ケア病棟が取り組んでいる。

ホスピス・緩和ケア病棟がターミナルケアだけの場ではないと理解してもらえればホスピスを勧めるのが酷だということにはならないのではないかと思う。

また、私は家族間やパートナー間で、普段から死について、緩和ケアについて話して欲しいと思う。ぜひ、自分の意思を家族またはパートナーに伝えておいて欲しいと思う。
自分が癌になったらどうしたいか。積極的治療ができない場合どうしたいか。最後はどう迎えたいか。

幸い、というか私が緩和ケアにかかわっているし、私の彼は癌治療に関わる仕事もしているので、私たちはお互いが癌になったらどうするかなど話す機会が多い。
「積極的に治療ができないのであれば、それは仕方ない。でも、苦痛の緩和はしっかりやってもらいたい。」とお互い話している。

癌でもないし、そんな縁起の悪いこと話したくないと思う人もいるかもしれないけど・・・。
でも、こういったことを話すも大切なことだと思っている。