イギリスは緩和ケアの進んだ国としてNHKの番組でも取り上げられたと話題になっていますが、現状はどうなのか・・・・。
最近そういった感じの質問をよく受けるので現場で働くいち看護師としての意見を少しかいてみようかと・・・。

たしかに、日本に比べたらイギリスは緩和ケアに関するケアスタンダードが確立しており、国内統一した緩和ケアが受けられるように指導はされている。
代表的なのはNational Institute for Health and Clinical Excellence、通称NICE(ナイス)のSupportive and palliative care のガイドライン
地域での緩和ケアの質の向上と統一したケアが受けれるように作成されたThe Gold Standards Frameworkなど。

そして病院内の緩和ケアチーム、地域のマクミランナース、ホスピス、緩和ケア病棟またはホスピス、かかりつけ医(GP)と訪問看護師の連携の確立。

緩和ケアを単独として考えたら、システムの確立やホスピスの数、専門スタッフの数、地域や病院の連携、ホスピスでの費用は無料(プライベート医療にかかった場合を除く)などの面ではすぐれているのかもしれない。

でも緩和ケアは単独で存在するわけではない。がん治療と切り離せない存在である。
がん患者さんは突然ターミナルになるわけでもない。突然、積極的治療不可能となるわけでもない。
そのため、緩和ケア単独で評価するよりも癌となった場合からの状況も含めて考えなくてはいけないと思う。

私も以前の記事「イギリスの医療事情:いつまで待たせるのか」で取り上げたこともあるし、
イギリス在住者のWebsiteやブログで取り上げられるように、(参考までに、リンク集のまささんの「こんなことだとは思わなかった」、leira-londonさんの「イギリスで暮らして・・・」など)
イギリスの医療システムナショナルヘルスサービス(NHS)の現状はあまりにもお粗末。

ホスピスで働いていてまれに「原発不明癌」の患者さんがターミナルケア目的で入院してくることがある・・・。
また「原発不明」でなくても診断がついたのがわずか数ヶ月前なのにすでにターミナル状態であったり・・・。

すでに転移が幾つか見つかり全身状態の悪化により原発の精査適応ではないケース。
ここまで全身状態が悪くなるまでにはさまざまな症状があっただろうに?と疑問も出てくる。

その原因のひとつにかかりつけ医であるGPの存在がある模様。
たとえば、患者さんが体調不良を訴えてGPにかかる。そのGPに会うためのアポイントメントを取るの時点でてこずってしまうことさえもある。緊急性がないときには即日でみてもらえないことだってある。

たとえばGPに「ずっとむかむか吐き気がある」「痛みがある」といえば、いい加減なGPであれば数分の診察で吐き気止めや痛み止めなどの薬を処方し、症状が改善しなければまた来てくださいとそれでおしまいになってしまうこともある。

しっかりしたGPであれば、ずっと吐き気が続いているのであれば検査してみましょう。専門医にみてもらいましょう。となるのだが、ここでもまた盲点が。

専門医にみてもらうのにまた数週間待たされる。検査をしてもらうのにまた数週間待たされる。検査結果が出て専門医に会うのにまたまた待たされる・・・。

イギリスにはWaiting listなるものが存在し、日本のようにスムーズに診察や検査は行われない。

診察や検査だけではない。治療だってスムーズには行われない。

たとえば、知り合いの泌尿器科専門医(Consultant Urologist)に聞いた話だが、前立腺がんや膀胱がんの手術をNHSで受けようとすれば4~6週間は待たされる。それ以上になることすらあるという。
治療を待っている間に亡くなってしまった、または状態が悪化して手術適応ではなくなってしまったケースもあるという。

しかし、お金がある人、プライベート保険に加入している人は、全額自己負担のプライベート医療が受けられる。その場合は待つ必要はない。
でも、イギリス国民のいったい何%の人がプライベート医療を受けられるか・・・というとはっきりとした数字は分からないが、そんなに多くはないと思う。

日本にはがん難民という言葉があると聞いた。治療法、情報を求めて医療機関をさまよっている人、情報に惑わされてしまっている人、治療の格差から別の選択肢があるにも拘わらず、「もう治療法はない」と医師に言われ医療不審に陥る人・・・。

以前コメントにも書いたことがあるが、イギリスの場合のがん難民はNHSのWaiting listによって生み出される、助け(治療)を待ち続ける”がん難民”が存在すると思う。そしてその”イギリスがん難民”を最終的に救うのが緩和ケアではないだろうかと・・・・。

私の働いているホスピスは満床になることはまれで常に1・2床は空きがある。また満床だったとしても近隣にもいくつかホスピスがあるのでそちらのほうへ入院してもらうこともある。
ホスピスに限っては入院が必要なのにを何週間も待つ、という状況はない。

なんだかまとまりなく、だらだらいきそうなのでひとまずこの辺で・・・。

私の個人的意見では、NHSのがん治療の現状に目を向けずに単にイギリスが緩和ケアが進んだ国として安易に捉えるのは少々危険な感じがする。

それぞれの国の医療システムが違うこと、医療の状況が違うことも踏まえながら、参考になる点を探してかなくてはいけないと思う。

私は日本の臨床を離れてすでに5年以上経過し、日本でのホスピス勤務経験はない。
自分で調べたり、話を聞いて得た情報から考えると、日本がイギリスに見習える点としては
・国、厚生労働省が緩和ケアにもっと積極的に力を入れる
(緩和ケアのガイドラインの確立、医療費の負担の軽減とか・・・)
・緩和ケア専門医、緩和ケア専門看護師の育成促進
・病院、地域、ホスピス・緩和ケア病棟の連携の確立

などが浮かぶけれど・・・。

そのほかにも今度もメディアなどで緩和ケアについて取り上げてもらい、医療者だけでなく一般の人にも緩和ケアのことをもっと知ってもらう機会を作っていくことも大切かなと思う。