約一ヶ月前の話になってしまうので恐縮ですが、日本滞在中に広島で行われた日本ホスピス・在宅ケア研究会の全国大会へいってきました。
二日間に渡る大会では興味深い内容が多く、聴きたい講演が重なってしまいどちらに行こうかと悩んだりもした。

その中で興味深かったのがシンポジウムの「中国地方のホスピスの現状と課題」。
中国地方の各県から看護師、医師または医療ソーシャルワーカーが代表で各県の現状や課題を発表した。
(せっかくメモをとったのに、日本に忘れてきてしまったので、詳しくは思い出せないのですが)

中でも広島県の取り組みは素晴らしいと感じた。
広島の緩和ケアは約12年前、末期医療検討会からはじまったそう。1998年、市民による署名運動で15万人分の署名を集め広島県へ提出。市民、医療者、行政が協力し、2000年に県内初の緩和ケア病棟ができた。
現在、9箇所の緩和ケア病棟(合計143床)があり、さらに年内に二箇所オープン予定。そして全国でもめずらしい緩和ケア病棟、デイホスピスの運営、緩和ケアについての情報提供、総合相談、専門研修、地域連携支援を柱とする事業を実践している緩和ケア支援センターがある。(この支援センターについては見学会にも参加したので次のブログで詳しく書く予定)

しかし、驚いたことに同じ中国地方であっても各県ごとにかなりホスピス・緩和ケアの取り組みが違いおどろいた。
私の印象としてはこういった緩和ケア事業を進めていく上で、広島県の取り組みにあるように市民、医療者、行政の協力が不可欠であるとかんじた。特に行政の協力と理解は大切にもかかわらず、現在の日本の現状をみると緩和ケア事業は厚生労働省が率先して進めているというより、それぞれの地方行政にまかされているような印象を受ける。
全国で緩和ケア病棟は144施設2718床あるとはいえ、緩和ケア病棟がいまだにない都道府県が4県、一箇所のみが15県ある。(2005年5月1日現在、日本ホスピス緩和ケア協会による)
もっと積極的に緩和ケアを推進するためにも厚生労働省からの全国規模での統一した働きかけをもっとしていくべきではないかと思った。


その後「広島スピリチュアル部会」の「気づこう 語ろう 私たちのスピリチュアリティ」で水島協同病院でスピリチュアルケア・ワーカーとして働く山下春憲氏の話を聞きに行った。

スピリチュアリティ(Spirituality)は辞書によると日本語での意味は「精神性、霊性、霊的なること」となっている。とはいえ、私は以前ホスピスを見学にきた日本の大学生に「スピリチュアリティはどんなケアをするものなのか」と聞かれてうまく答えられなかった。

山下氏の話を聞いていて、やはりスピリチュアルケアは一言で言い表せないものだと思った。
目に見えないものであり、ひとそれぞれ違った人生を歩んできており、自分の価値観、存在感、魂、心の苦しみ・葛藤は人それぞれ違う。その苦しみを和らげること、それはとても大切なこと。

この講演の後、グループに分かれスピリチュアリティについて話し合う機会があった。たぶん40人くらいはいたと思うのだが、発言していたメンバーは多くの人が家族をなくした人だった。自分の経験に基づいて発言している人が多かった。切実な思いを訴える方が多く、中には涙を流している方もいた。医療者も結構いたのかもしれないが、発言していたのはわずかだった。
これらを聞いていて、私の個人的な意見だけど、医療者が考えている以上に多くの患者さんや家族がスピリチュアルな苦痛を抱え、それに対するケアを必要としているのではないかと感じた。

でも、現在日本でスピリチュアルケア・ワーカーとして正式に給料をもらって働くスタッフは数少ないのだという。スピリチュアルケア・ワーカーとして専門的な教育を受けたにもかかわらず、中にはボランティアのような形で働いている人もいるという。

身体的な症状に対して行う治療や看護と違って、目に見えないものに対して行うケアであるからそれに対する診療報酬がとりにくいのだろうか???そのため病院経営側としては軽視してしまうのだろうか???このあたりは私はわからないのだけど・・・。
各病院・ホスピスにスピリチュアルケア・ワーカーをおいて、患者さんや家族が話し合いたいとき気軽に立ち寄れる部屋があったら。またケアワーカーが病室訪問し、患者さんや家族と関わることができるような環境ができたら、どんなにいいだろう。

そんなのは理想論で実際の臨床はそうはいかない、といわれてしまうかもしれない。
緩和ケアのみに関わらず、すべての医療現場において私たち医療者は身体的な苦痛のみならず、精神的な苦痛、スピリチュアルな苦痛の軽減も同じくらい大切だということを忘れてはならないと思った。

二日目のシンポジウム「ホスピスの多様化」では全国で行われているさまざまな形での緩和ケアが紹介された。施設内の緩和ケアにとどまらず、在宅での緩和ケアの可能性、地域に密着したケアの提供。それらに取り組む医師の積極的な姿勢に感動した。
またNPO法人でホームホスピスと称して小さなグループホームのような感じで緩和ケアを提供している団体も紹介された。
そして広島のデイホスピス。広島県の緩和ケアセンターで全国初のデイホスピスでモデル事業として行われている。
日本でも施設内にとどまらず、いろいろな形で緩和ケアが提供されていることを知り、私はとても嬉しく思った。

5年前私が日本にいたときよりも日本の緩和ケアは確実に変わってきていると思った。
ホスピスという施設だけの枠にとどまらず、在宅での緩和ケア提供の広がりを感じた。そして関わっている医療者、市民グループ、たくさんの人の緩和ケアに対する熱意を感じた。
そしてなにより、この大会に参加して感動したのがボランティアスタッフのみなさんのはたらきぶり。大会前日の緩和ケアセンター見学、大会当日の会場までの案内をはじめ、至る所でボランティアスタッフの姿を見かけ、笑顔で挨拶をして迎えてくれた。


P.S.
広島は今年、原子爆弾が投下されて60年という節目をむかえている。平和への祈りがこめられた平和記念公園の国際会議場でこの大会が行われた。私は大会の合間に平和公園、そして平和記念資料館も訪れた。多くの人の命が一発の原子爆弾により失われ、いまだに苦しむ人々がいる。命の大切さを改めて見直し、平和への祈りをささげた。