私は日本では内科の経験しかなかったし、外科はどちらかというと苦手だった。外科系が中心のプライベートホスピタルで、アダプテーショントレーニングを何とかおえて、そのままそこでスタッフナースとして働いていた。慣れた所だったし、英語にもまだ自信がなかったからここで2・3年働きながら英語も勉強して自信をつけてからホスピスに転職しようと考えていた。それにイギリスにきて以来、英語の勉強、アダプテーショントレーニング、バイト・・・多忙な日々だったので、ちょっとのんびりとしたかったというのも本音。

免許をとって約半年、スタッフナースとして週30時間働き、気ままな生活をしていたある日。仕事から帰ってくるとフラットメイトが「ブレンダという人から電話があってすごくいいニュースがあるからすぐに電話してって言ってたわ」という。

私はアダプテーショントレーニングをする前にボランティアをしていて、その時ブレンダのお父さんを他のボランティアと一緒に在宅で介護し、最期を看取った。それ以来、ブレンダとは家族同然の付き合いをしている。

その日はもう遅かったので次の日、ブレンダに電話すると
「ホスピスの求人広告が新聞に載ってるのよ!覚えてるでしょ、Hiが前見学にいったあのホスピス!」
と彼女は興奮気味に話した。

私はブレンダのお父さんを看ていたときにホスピスに興味があるといったら、ブレンダの知り合いがホスピスのSenior sister(日本でいう看護部長さん)をしているのを思いだし、見学できるようにお願いしてくれた。当時、英語がろくに話せなかった私は聞きたい質問を紙に書き、質問の英語をブレンダにチェックしてもらい、レポート用紙2枚に渡る質問表を持ってホスピス見学に出かけた。3年近くも前のことだった。

ブレンダによると募集しているのはNight StaffのFull timeかPart timeでD/E Gradeと記載されているだけでとくにPalliative careの経験の有無は問わないという。
私は雇用主にWork Permitを申請してもらわないといけない。英語も完璧ではない。まだイギリスの免許を取って半年のD Grade。いくら日本で癌患者の看護の経験があるとはいえ、不利な点は多い。でもNight Staffだともしかして応募してくる人が少ないかもしれない、そしたらその分私が仕事をGETできる確率が上がるかも?!Work Permitさえとってもらえば仕事に慣れて、空きが出たらDay Staffに変わることも出きるだろう、と考えた私は応募してみることにした。

ブレンダはすでにSenior sisterに電話してくれていて、私が応募することを伝えてくれていた。ブレンダは私にとっていつも面倒見のよいイギリスの母のよう。

アプリケーションパックを提出し、待つこと数日。インタビューの案内の手紙が着た。
いよいよインタビューの日。私は遠方にすんでいたので、余裕を持って朝の6時すぎに家を出た。
フェリー、バス、列車と乗り継いで、ホット一息着いた時。突然列車が止まってしまった。列車はよく遅れるので一時間近く余裕を持って家を出ていたから、そのうち動き出すだろうとのんびりまっていた。
でもなかなか動き出さないし、電気もつかない。
暫くすると車掌さんがやってきて
「電気系統の異常で動かないようなのだが、この車両は新型なので誰も復旧の仕方を知らないから、エンジニアがくるまでまってください」と申し訳なさそうにアナウンスしてまわっている。

待つこと、約一時間。列車は動く気配は全くなく、結局牽引して動して次の駅まで行くので乗客はそこで降りてくれといわれた。
さすがに私もあせり出した。このままいくと絶対にインタビューに遅刻してしまう・・・。

とりあえず、ホスピスに電話をして遅れることを伝えることにした。
運良く電話に出たのはSenior sisterだった。
「Hiでしょ?覚えてるわよ。心配しないで、いらっしゃい」といってくれた。

次の駅でおろされた乗客たちと他の列車の遅れでプラットホームは大混雑。なんとか次の列車に乗り込み早く到着するように祈っていた。

ホスピスの最寄駅(といってもここから車で約30分)でブレンダの弟と待ち合わせ、車でホスピスまで送ってもらった。私はかなりあせっていた。既にインタビュー予定時間から一時間半がすぎていた。

ホスピスにつくと、もう私の次のインタビュー予定だった人が終わっていた。小さな部屋に通されると、3年前に会ったSenior sisterと初めて会うNight sisterがいた。私は挨拶と遅れたお詫びをして一言二言Night sisterと話すと愕然とした。彼女はものすごいスコティッシュアクセントの英語を話すのだ。さっぱり解らない・・・。

不安と緊張、スコティッシュアクセントの英語に戸惑う私をよそに、Senior sisterはNight sisterに私がホスピスにとても興味を持っていて、3年前にこのホスピスにやってきて大量の質問を彼女にしたこと、日本で内科病棟で働き癌患者を多く看てきたこと、イギリスでブレンダのお父さんを在宅で看取ったこと、などなど話してくれた。
Senior sisterがほとんど説明してくれたので結局私が答えた質問といえば
「今どんな所で働いているのか」
「日本の病院ではどのようなケアをしていたか」
くらいであとはSenior sisterとNight sisterが二人で話している感じだった。
そして別室で待つように言われた。

私は消極的すぎたかな、でも口を挟む余裕もなかったしな。手応え全くないし、ダメかなこれは。などと考えながらまっていた。

再び、部屋に呼ばれるとSenior sisterとNight sisterは笑顔で
「あなたにここで働いて欲しいわ。」といってくれた。
やはり私の狙ったとおり?応募してきたのは私を含めて3人でしかもそのうち一人はインタビューに現れなかったらしい。

こうして私はホスピスでの仕事を手に入れたのでした。