英国ホスピスコラム


イギリスの病院でマクミラン緩和ケア専門看護師
(Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist)として働くナースのブログ

2010年12月

イギリスでの在宅緩和ケアの現状(2)

イギリスでの在宅緩和ケアの現状(1)のメールのやり取りのつづきです。



> 入院可能はホスピスのベッド数が日本よりもずっと多いんですか?
Help the Hospiceによるとイギリスのホスピス&緩和ケアのベット数は3,194 床。
http://www.helpthehospices.org.uk/about-hospice-care/facts-figures/
雑誌の緩和ケア9月号によると日本の緩和ケア病棟承認施設のベット数は4,065床。


そして、 Googleによると2009年のイギリスの人口は約6200万人、日本の人口は1億2700万人。

単純計算だと・・・ホスピス緩和ケアベット1床に対する人口比がイギリスは19411人に対して、日本は31242人。(計算が違っていたらすみません)


このような単純な計算からすると、イギリスは日本よりもホスピスのベット数が多いみたいですね。
 
あと、ホスピスの滞在日数がイギリスは日本よりも短いのでベットの回転率も高いためもあると思います。
ちょっと古いですが、Hospice and Palliative Care Directory 2008によると、2006-7年のInpatient servicesのMean length of episode of careは12.9日だそうです。
 
 
> 在宅療養を望む患者さんの方が多いんですか?
私が日本で働いていたのはもう10年もまえなので、今の日本の患者さんたちの動向は分からないのですが・・
イギリスはEnd of Life Care Strategyにも掲げられたように、在宅死を望む患者さんのサポートを推奨していますから、在宅を望む人は多いと思います。
たしか半数以上が在宅療養または在宅死を望んでいるというデーターをきいたことがあります。
 
NHSの病院は治療が終わればさっさと退院を通告されるので、(たとえば出産であっても異常がなければ即日または翌日退院、簡単な手術なら術後1・2日で退院)、イギリス人の頭の中では病院でできる治療が終われば退院、病院は長期療養の場ではないと認識されているのかも????
 

> 都会と郡部では違いがあるんでしょうか? (urban vs rural)
詳しいデーターは見たことがないのですが・・・・。
田舎のホスピスで働き、田舎で訪問看護師、今はロンドンの中心部の病院で働く自分の経験からは・・・・
ロンドンの方が在宅サービスは充実しているかもしれません。
ロンドンの一部地域はHospice at Homeというシステムがあって、終末期の患者さんの在宅への移行がとってもスムーズにいけます。
訪問看護師も夕方・夜間サービスをしているところが多いし。
 
田舎は地域によって訪問看護師のサービスが日中だけだったり、夜間はなかったり・・・・。
 
でもワイト島のようなど田舎でも、Hospice at Homeがありますし。
地域によりけりですね。
 
> NHSで全額まかなわれると言うことは、やはり療養や治療も制限されると認識してよいでしょうか?
がん治療については、必要があれば化学療法も放射線療法もするので、そこまで制限されている印象はないです。
たーまに、諸外国で認証されている抗がん剤がNHSがカバーしないから寄付を募って治療を受けたという患者さんの記事をみることもありますが・・・・。
たしかに日本と比べてしまうと、ところどころ待ち時間があって、多少スローかもしれません。
 
たとえば、放射線療法、抗がん剤もまったく効果なし、手術は不適応、治療手段はまったくなしという患者さんが「効果がないのをわかっていても、どうしても抗がん剤をして欲しい」と懇願したら、日本ではどうするのでしょう?
イギリスだったら、きっぱり「残念ながら効果はなく、副作用がでるだけなのでやりません。」といわれるでしょうが・・・・。
 
緩和ケア・終末期ケアに関しては、制限されているようなことはないと思います。
症状緩和のために効果があるとおもわれえるのであれば、化学療法、放射線療法、外科的手術もおこないますし・・・・。
終末期であれば、在宅で看取れるように、電動ベットなどの機材、介護士の派遣、訪問看護師の派遣はすべてNHSでカバーされますし。

 
> 「絶対にこの病院からわしゃ退院せん!」と言うときはどうしているのですか?
なぜ退院したくないのかを聞き、「家に帰るのが不安」だとか「家でひとりで何もできない」ような理由で、医療者から見て家に帰るのに問題はないと判断されたら、家に介護士を派遣する手配をして、帰っていただきます。
 
病院レベルのケアは必要ないが、たしかに家では無理だろう、24時間介護・看護が必要だと判断されたら、ソーシャルサービスと連携しNursing Homeやresidential homeのようなところへ行けるようにします。
 
病院レベルのケア・医療が必要なく、上記のオファーをしてもそれでもごねるようだったら、おそらく、
「あなたは病院にいる必要はありません」
「あなたのしていることはベットブロッキングです。」とキッパリ通告されます。
 
そういえば、3ヶ月くらい前に、家に帰るのは嫌だ病院にいたいといってトイレに立てこもった患者さんがいました(苦笑)
結局は説得されて、介護士が一日2回家に訪問する、在宅のマクミランナースがサポートするということでトイレからでてきてくれて退院しましたが・・・。



*編集しようかとも思ったのですが、忙しくて時間がなかったので、そのまま転載しました。読みにくい部分がありましたらすみません。

イギリスでの在宅緩和ケアの現状(1)

親しくさせていただいている日本の緩和ケアの先生より
「がんで看取りを迎える患者さんはどれ位看取りの場所を選べるのでしょうか?」
という質問がありまして・・・。

先生の勧めもあり、メールでのやり取りを記事にさせていただきました。ありがとうございます。


イギリスでは、がん患者さんに最期をどこで過ごしたいかという意思確認をすることを推奨しています。
いつ、そういった話をするかというのは患者さんの状態や本人の気持ちの問題もあるので、早くからそういう話をしている人もいれば、かなり状態が悪くなってもそういった話をしたくないという方もいます。もちろん患者さんの意思も代わることだってあります。
誰がするか、というと、たいていはコミュニティのマクミランナース、GPなど、患者さんと良好な信頼関係が築けているヘルスケアプロフェッショナルが話をして記録しておきます。
Advenced Care Planingも参考になるかもしれません。
http://www.endoflifecareforadults.nhs.uk/publications/pubacpguide
 
 
がんの患者さんで、病院レベルでの治療が必要なくなった時点、そうなりそうなときに、患者さんに家に帰りたいかききます。
家に帰れるほど症状コントロールができていない場合はホスピスをすすめます。
症状はコントロールできているが、独居でケア度が高すぎる、24時間ケアが必要、な場合はナーシングホーム(長期療養型看護施設)を勧めることもあります。
 
病院にいたいという選択肢は患者さんには残念ながらありません。(移送できないほど状態が悪い場合を除く)
NHSの急性期病院のベットは、治療が必要な人のためであり、ご存知のとおり、Waiting listもあります。
病院での治療の必要のない患者さんのためのものではないのです。
 
 
実際、わたしの仕事(急性病院でのマクミランナース)の立場から言うと、患者さんが家に帰りたい(死にたい)といえば・・・
・移送時に死亡する可能性のないこと
・症状コントロールがある程度できている
・患者さんが必要とするケアのレベルが在宅でマネージできるレベル
・家で最後を迎えたいという本人の意思がはっきりしている。本人に意思決定の能力がある。
・住居の問題がないこと(電動ベットがおけるスペース、そのた必要な介護物品等の設置が可能であること)
以上の条件を満たしていれば、家に帰れます。
 
終末期の退院の場合、患者さんによって多少違いますが、このような手配が必要になります。
・在宅のマクミランナースに連絡、患者・家族のサポート、GP,訪問看護師のサポートの依頼
・電動ベットの手配(電動ベットを受け入れてもらわないと、ケアラー(介護士)にHealth and Safetyを理由に介護を断られるのでこれは譲れません)
・その他必要な物品手配(酸素、ポータブルトイレなど)
・ケアラーの手配(最大1日4回訪問といわれますが、私は最大8時間滞在をおねがいしたこともあります)
・マリキューリーナース(夜間夜10時から朝8時ごろまで滞在してくれるのナースの手配)
・訪問看護師の依頼(シリンジドライバー・持続皮下注射の管理)
・GP(かかりつけ医)の往診依頼(死亡診断書を書いてもらうため、退院後できるだけ早く往診してもらう)
 
Londonの一部では幸運にもHospice at Homeというサービスがあります
Hospice at Homeでは、ホスピスから患者さん宅に緩和ケアの経験のあるケアラーを速やかに派遣してくれます。
即日依頼でも可能のこともあります。
 
先々週、腎不全、心不全末期の患者さんが家に帰りたいといわれました。
その患者さん、独居で家族は遠方にすんでいる人でした。
症状はなんとかコントロールできているレベルでしたが、急激に悪くなるのは目に見えていました。
幸運にもこの患者さん、Hospice at homeのカバーするエリアに住んでいたのです。
Hospice at Homeに依頼を出して電話をしたら、翌日夕方から24時間ケアを開始できるといわれました。
(ちなみに24時間ケアは最大2週間までだそうです)
患者さんが一人暮らしで、ほぼ寝たきりだったので、最初のケアラーが来たときに家の鍵を開けれる人がいなかったので、どうやって家に入ってもらおうか、救急車で患者さんが到着するときにあわせて外で待機していてもらったらいいのか困って電話したら、病院にケアラーを派遣してしてくれて、患者さんに家まで付き添ってくれました。
このHospice at Homeのおかげで、この患者さんは「家に帰りたい」といって準備を始めた翌日午後に退院しました。
 
文章にしてしまうと、あっさり退院したかのように見えますけど、かなり大変でした。
この患者さん、独居で、家の鍵を持っている隣の人の電話番号も知らないし、友達もいないし、家族は遠方に住んでいるしで、在宅酸素などの配達ができなかったんです・・・。もう、とにかくいろいろなところに電話しまくって、酸素を家に設置できたときには、病棟で退院コーディネーターと抱き合いました。
おまけにこの患者さんと平行して、もう一人家に帰りたいという患者さんがいたので、たいへんでした。
話がちょっとそれてしまいました。
 
 
イギリスではすべてNHSでカバーされますから、患者負担は無しです。
このような終末期の退院の場合、退院後の医療・介護の費用の方は患者さんが登録しているGPのPrimary Care Trust(PCT)が全て負担します。
そのためには退院前にFast Track NHS Continuing Healthcare FundingをPCTに申請しなくてはなりません
(15ページくらいの書類なのですが、私たちマクミランナースが主にこの申請をします)
この申請を受けたPCTは24時間以内にこの申請を受け入れるか、却下するかの判断をしなくてはなりません。
「状態が急激に悪くなっており、予後数日から数週間」
「治療手段はなく、緩和ケア、終末期ケアが必要」
「患者本人が家で最期を過ごすことを望んでいる」
に当てはまっていれば、ほぼ申請は通ります。いままで何通もこの申請をしましたが、私は却下されたことはありません。
 
イギリスの急性期病院のベットを確保する費用を考えると、在宅で患者を看たほうがコスト的には安いといわれていますので、在宅は推奨されています。
ホスピスの待ち時間も日本と違ってとても短いです。早ければ、翌日、平均的に2・3日中には受け入れてもらえます。
London西部にあるとあるホスピスだけは、待ち時間が以上に長くて、ターミナルケでも7日待たされました。でもこのホスピスの待ち時間の長さが問題になって、他のホスピスがかわりに受け入れてくれるようになったので、ずいぶん助かっています。
 

イギリスでの在宅緩和ケアの現状(2)につづきます

*編集しようかとも思ったのですが、忙しくて時間がなかったので、メールの文章をそのまま転載しました。読みにくい部分がありましたらすみません。

イギリスのがん患者の生存率

BBCでこんなニュースを発見。

UK cancer survival rates lag behind other countries
http://www.bbc.co.uk/news/health-12054984

イギリス(スコットランドを除く)のがん患者の生存率は諸外国(カナダ、オーストラリア、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク)に比べまだまだ低いようです。

特に肺癌の5年生存率はカナダが18.4%に対し、イギリスはわずか8.8%。
ほかにもイギリスは大腸がん、乳がんも他国に比べ、5年生存率が低いらしい。



British Medical Journal にも

Cancer survival in UK and Denmark lags behind that in Australia, Canada, and Sweden
http://www.bmj.com/content/341/bmj.c7372.short?rss=1&utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%253A+bmj%252Frecent+%2528Latest+from+BMJ%2529
(こちらのFull TextへのアクセスはBMAのメンバーか、Athensアカウント等が必要です)



イギリスのがん医療、更なる改善が必要です・・・。

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