英国ホスピスコラム


イギリスの病院でマクミラン緩和ケア専門看護師
(Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist)として働くナースのブログ

2010年10月

日本語1フレーズ

私は急性期病院で緩和ケア専門看護師として働いているので、依頼があればどの病棟へもいく。

ロンドンの大きな病院なのでさまざまな国籍のスタッフが働いている。
でも、院内に日本人はいまのところみあたらない。

ある日、以来のあった患者さんの記録を読んでいたら
「コンニチハ、日本の方ですか?」と日本語で話しかけられた。
なんとその方、日本人と結婚したことがあるそうで、日本語が話せるらしい。でも奥さんと別れてからは話す機会がなくなったそう。
それからというもの、その病棟にいくとそのスタッフと日本語で話すようになった。


また他の病棟でも
「コンニチハー」と声をかけられた。
中国人のスタッフで、何年も前に中国で日本語を習ったそう。
「でもすっかり忘れちゃったから、会うたびに1フレーズ、日本語教えてね。」
といわれた。


そしてある日、患者さんの医療記録を読んでいたら
「モシモシ?」といわれ、顔を上げると日本に行ったことがあるという若い医師が話しかけてきた。
この医師にも「会うたび日本語1フレーズ教えて」とたのまれた。



そんなことが何度もあり、なんだ「会うたび日本語1フレーズ」のメンバー(?)が増えてきたきがする・・・。

この前も院内で階段を勢いよく下りていたら、すれ違いざまに「コンニチハー!」と声をかけられた。
彼女も「会うたび日本語1フレーズ」のメンバーの一人だった(笑)


こうなったら緩和ケアだけでなく、日本語も院内に広めていこうかな・・・・。


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急性期病院での終末期ケア

Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist(マクミラン緩和ケアクリニカルナーススペシャリスト)としてNHS(National Health Service)の急性期病院で働き始めて約4ヶ月。
主なわたしの仕事内容はこんな感じ→
過去記事:すこしずつ・・・。

イギリスに住む人々はNHS、病院というと医療の質の悪さをイメージする人はたくさんいると思う。

そんなイギリスの急性期病院の苦情の54%が終末期や死別のケアに関することらしい。(Healthcare Commission、2007)

実際に急性期病院で緩和ケア専門看護師として働くとその実情がいろいろ見えてきた・・・。


腫瘍科の病棟に入院していた癌の患者さんのAさん。抗がん剤治療を何度も行っていたが効果はまったく見られず、癌の進行はとまらなかった。
もうこれ以上の抗がん剤治療は身体を痛めつけるだけ・・・。
状態は日に日に悪くなっていき、ホスピスで最期のときを迎えたいといわれた。

ホスピスへターミナルケア目的の入院の依頼をしたけれど、運悪くホスピスのベットが満床。2日待たされてしまった。

病棟は個室が埋まっていて、Aさんは6人の大部屋にいた。
Aさんの奥さんは狭いスペースながら、Aさんの状態が悪くなってから毎日泊まりこんでいた。

「一日でも早くホスピスへ行きたい」Aさんも奥さんも口をそろえていっていた。

ようやくホスピスへの転院の日になった。
仕事に行くとすぐに、病棟のスタッフからポケベルで呼び出された。
「Aさんの状態が悪いからみに来て欲しい」とのことだった。

病棟に着くと、目を真っ赤にしたAさんの奥さん。
そしてAさんの意識は低下して、かろうじて呼びかけにうなずく程度。喘鳴もでてきていた。
Aさんの担当のチームのジュニアの医師は「ホスピスへの転院は無理では?!」といっていた。
ホスピスまでは救急車で転送するが、早くついても3,40分はかかる距離。
最悪の場合、転送中になくなる可能性もある。
ホスピスにたどり着けたとしても、数時間で亡くなるのは明らか・・・。

Aさんの奥さんがわたしのところへ駆け寄ってきた。
「お願い!早くホスピスに連れて行って。もうここ(病院)にはいたくないの。昨日の夜だって、Aは痛みを訴えていたのに、スタッフは忙しくて、注射を打ってもらうまで2時間も待ったの!ナースコール押しても誰も来なくて、看護師を病棟内探し回って、頼み込んで、注射してもらって・・・・。
みんな忙しいのはわかってる。でも、こんなのもう我慢できないの。血圧はかりにきたナースもいたけど、Aが苦しがっていても、血圧はかったらそれっきりで・・・なにもしてくれなかった。なんのために血圧はかってるの?そんな必要あるの?
Aはずっとホスピスに行きたいといっていたの。もう長くないのは十分わかっているから・・・。お願い、キャンセルしないで・・・。」

Aさんの奥さんをスタッフルームに連れて行き、救急車内で亡くなる可能性が高いこと。万が一救急車内でなくなった場合は、ホスピスは受け入れることができないので、病院の救急外来へ戻ってこなければならないことを話した。
それを覚悟の上であれば、私はホスピスへの転院をサポートすると伝えた。
Aさんの奥さんは泣きながら私に抱きついて、「たとえ、救急車の中で亡くなったとしても、悔いはない。Aだって、あんなにホスピスに行きたがっていたのだから、そういうと思う。他のスタッフは反対みたいだったからダメかと思っていたの、ありがとう」といった。

私はホスピスの医師に電話し、患者の状態、転送中に死亡する可能性があること、そのときは病院へ戻す。家族もそれを承知の上で転送を希望していること。本人もホスピスへ行きたいという意思が強かったことをつたえた。
医師も理解を示してくれた。

Aさんの担当のチームのシニアの医師にも状況を伝えて、ホスピスへの転院の同意を得た。

あとは、救急車の到着を待つだけ。救急車は10時半に予約していたのに、12時になっても来なかった。
私ももう一人、終末期の退院を控えている患者さんの準備で忙しかったので、Aさんに付きっ切りではいられなかったが、12時半過ぎに救急車が到着。
救急隊員にも事情を説明し、Aさんはストレッチャーに移され、病棟を出発した。Aさんの意識はもうなかった。

どうか、ホスピスに着くまで呼吸をしていてくれますように・・・。
Aさんの奥さんとハグして、お別れをいった。
祈るような気持ちで見送った。


その後、救急外来から連絡はなかったので、5時ごろホスピスに電話した。
Aさんはホスピスにたどり着くことができ、約2時間後息を引き取ったそう。


このような状況でホスピスへ転送すべきだったのか。
やめるべきだったと考えるスタッフもいた。
でも、ホスピスに行きたいという本人の意思も明確だった。
あのまま病院の大部屋でAさんは亡くなってしまったら・・・。家族も後悔の念でいっぱいだったかもしれない。病院のケアの不満でいっぱいだったかもしれない。


病棟のスタッフ不足は深刻なのはみていて気の毒なくらい。
だからといって苦しむ患者さんや家族をほっておくわけにもいかない。
終末期の患者さんのケアで何が大切なのか。何を優先すべきなのか。
急性期病院の緩和ケア専門看護師として、わたしのやるべきことは山ほどありそうだ・・・・。


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