もしも自分が治る見込みの無い進行性の病気で

どんどん状態が悪くなっていく

そして残された命がわずかだと知り

あなたは何がしたい?




1月30日にイギリスのテレビBBC2で10時から放送されたThe Children of Helen Houseというドキュメンタリー番組をご覧になった方はいますか?

Helen Houseは24年前に世界で初めて創立された、余命わずかな病気をもつ子供たちのためのレスパイトケアと終末期のケアを行う施設、つまり子供のためのホスピス。

Douglas HouseはHelen Houseに隣接されている若年の成人のためのホスピス。

このドキュメンタリー番組はHelen HouseとDouglas Houseの活動の様子を紹介するもので、全8回の放送予定で、1月30日はそのパート4が放送された。

このドキュメンタリーのパート4の中でDouglas Houseの患者さん、Nickのことが放送された。

残念ながら私は見逃してしまった・・・・。

でも、私は数ヶ月前にこのNickのケースに関わっていたスタッフと直接話をする機会があったのでどんな内容なのかは知っていた。

Nickは22歳の男性でデュシェンヌ型筋ジストロフィーをわずらっている。
彼の病気は全身の筋肉が萎縮し、筋力が低下していくもので、20-30歳代で心不全や呼吸不全などで死に至る確率が高い。
(デュシェンヌ型筋ジストロフィーについて詳しく知りたい方はこちら→日本筋ジストロフィー協会

Nickも病状がかなり進行しており、車椅子での生活で、日常生活にも介助が必要。そしてこの先も病気が進行し、残された命も長くは無いことは本人もしっていた。

そんなNickには「死ぬ前にセックスがしたい」という願いがあった。
大学に行ったときに女性と出会い、親密な関係になりたかったというNickだが、残念ながらそのチャンスには恵まれなかった。

そして病状が進行し、死も意識していく中、彼はセックスをしたいと願った。

家族やスタッフとも話し合いを重ね、スタッフも法律、ヘルスケアのポリシーなどを踏まえ討論を重ねた。
もちろん、たやすいことではなかったそう。
前例も無く、スタッフ間でもかなり意見が割れたそうだ。

議論を重ねた結果、Nickの願いをサポートすることになった。

Nickが雑誌の広告から障害者に対応できる売春婦を探し、コンタクトをとった。
そして、Nickは家で夢をかなえた。

しかし、その夢をかなえた後、Nickはかなり複雑な心境だったそう。
「精神的に満たされるものではなかった、でも自分のしたかったことをしたのだ」と・・・。

新聞記事でもこのことが紹介されていたので興味のある方はどうぞ→Hospice helped dying man lose his virginity


性についてはタブー視されることが多く、表立って話すのはやはり難しい。
誰もが大切なもの、当たり前のものだと解っていても。
まして、売春婦が関わっての性行為のサポートとなると、売春行為を推奨したのではと批判的な人もいるかもしれない。
そんな中で、このドキュメンタリーの取材を受けたNickと彼をサポートしたスタッフはすばらしいと思う。



しかし、私にはこのことはNickにとってよかったのか悪かったのかわからない。
Nickが本当にしたかったのは恋愛だったのではないかと思う。そして、その延長上にセックスがあったのではないかなと。
行為そのものによる身体的な満足は得られても、恋愛感情の無い行為では精神的な満足度が得られないのではないか。
身体的な行為だけと割り切っていたとしても、やはりなにか欠落したような行為でしかない気がして。
・・・など私があれこれ考えて良否を決める問題ではないと思う。
Nick自身が実行できてよかったと思えることが大切だと思う。



セクシュアリティとこの記事のタイトルをつけてしまったけど、セクシュアリティはもちろん性的な行為のみをさしているわけではない。
私としては性にまつわるすべて、性行為、性欲、人間関係、人として当たり前の欲求、ボディーイメージにまつわる女性(男性)らしさ、じぶんらしさなどひろく捉えている。そしてそれらをサポートするのも緩和ケアの役割のひとつだと思う。


PS
以前、ある人に「セックスボランティア」という本をいただいた。
障害者の性と愛について書かれたノンフィクションだった。

緩和ケアの分野と障害者の分野では予後、余命などの点で多少状況が違うこともあるけど、いろいろと考えさせられる内容でとても興味深かった。
介護・看護に関わる方にお勧めしたい。