英国ホスピスコラム


イギリスの病院でマクミラン緩和ケア専門看護師
(Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist)として働くナースのブログ

2006年07月

やっぱり待たせるイギリスの医療

今月上旬にコンタクトレンズを作るため、眼鏡屋さんで検眼をしてもらった。
そのときに検査技師が診察したときに
「Pigment(色素)が見えるけど、前からあった?」と聞かれた。

17歳のときからコンタクトレンズを使っているので、1・2年に一度はコンタクトレンズを作り直すために日本で眼科医の診察を受けてきたけれど、今まで一度もPigmentについては言われたことが無かった。

「こうしてみるだけでは眼の中全体が見えないので、写真を撮ったほうがいい」といわれ、眼底の写真を撮ってもらうと・・・。

確かに小さな黒い点々がいくつか見える・・・。

「多分、前からあったものだと思うけど、あなたのかかりつけ医(GP)にも連絡しておくわ。毎年ここでチェックしていくといいわ」といわれて帰された。

そしてその3日後。かかりつけ医(GP)からお呼び出しの電話がきた。
眼の事で話し合いので週明けに着て欲しいと。

ぼろぼろと思っていたイギリスの医療状況の中、わざわざかかりつけ医から呼び出されるとは・・・・。しかも、こんな素早く・・・。
きちんとしてくれてありがとうというよりも、逆にもしかしてこれは重大な問題なのか?!と不安が募ってしまった(苦笑)

今までとくに病気もしていなかったのでかかりつけ医にはかかったことは無かったが、たまたま私のかかりつけ医は働いているホスピスの週末の当直をやることがあるので顔見知りだった。だからご丁寧に呼んでくれたのかも知れない。

予約の日時にかかりつけ医に会いに行くと、ひととおり何か眼の症状は無いか聞かれ
「眼科専門医に依頼状を送るので、そちらからまたアポイントメントが送られてくるよ。」といわれた。
「何か悪い病期の可能性ってあるんでしょうか?」と一応聞いてみたら
「僕は眼のことは専門でもないからわからない。だから眼科専門医にみてもらいましょう」とのこと。

そしてかかりつけ医と会った日から約2週間後。
隣町のNHS病院(国営の病院)の眼科専門医からのアポイントメントの手紙が届いた。
そのアポイントメントの日付を見て思わず苦笑い。

3 OCT 2006

OCT
October
つまり10月
今は7月

2ヶ月以上も先のアポイントメント。待つだろうと予想はしていたけどね。

この手紙の注意書きには
「患者がアポイントメントをすっぽかすことにより、病院はつきに1000ポンドあまりの(約20万円)損害を受けています。あなたのご協力をお願いします」みたいなことが書いてある。

そりゃ、何ヶ月も先のアポイントメントだったら症状も治ってしまってまあいっかってことになってしまうだろうし、ついうっかり忘れる可能性も高いだろうし。
1000ポンドの損害も自業自得というか、NHS(イギリスの国の医療サービス)がちゃんとしていないおかげでこうむっている可能性もあるんじゃないの?!と思ってしまった。

この話を彼氏にしたら
「今すぐ抗議の電話をかけろ。今まで今まで一度もPigmentについては言われたことが無かった、不安でたまらないから何とか早く診てもらえないか頼み込め」といわれた。
「そんなんで、アポイントメントが早まったらだれも苦労しないよ」と私は半信半疑。
「いや、みんなそうやって抗議の電話してくるぞ。電話しろ」と。
一応、彼氏はNHS内で働く人間なので、信憑性はあるが。
そうやって電話かけてこられてアポイントメントが変更できるんだったらはじめっから早めに診てくれ・・・と思うのだけど。

無料で医療は受けれるけど、待たされるのは勘弁して欲しいわ・・・。

緩和ケアとチームアプローチ

緩和ケアにおいてチームアプローチはとっても大切。
緩和ケアのテキストブックなどを見て多職種によるチームアプローチの重要性が書かれている。

緩和ケアでは患者さんとその家族の身体的、精神的、社会的な苦痛へのケア、スピリチュアルな部分のケアをする。そのためにはさまざまな職種のスタッフが協力してケアしていかなければすべてのケアをカバーすることができない。
そしてそれぞれの職種のスタッフが連絡を取り合い、同じ目標を持って患者さんのケアをしていかなければならない。


私の働いているホスピスではMultidisciplinary team Meeting(MDT)が毎週火曜日に行われる。このMDTミーティングでホスピスで患者さんや家族のケアに当たるスタッフが集まり、情報を交換し患者さんの今後のケア方針について話し合っていく。

参加メンバーは・・・
緩和ケア専門医、医師、看護婦長、それぞれの病棟のチームリーダーまたはチャージナース、家族サポート看護師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、アロマセラピスト、牧師。

今週のMDTミーティングの日、私が病棟チャージナースだったのでミーティングにいってきた。

一人一人の患者さんの現在の状態、どのようなケアをやっているか、情報の交換、そして何が問題になっているか話し合う。
そしてこれからどうケアしていくか、今後の方針を話し合う。

こうしてみんなで集まって話し合うことにより、それぞれの持つ情報を共有できる。いろいろな角度からの患者さんや家族の情報が得られる。
そしてみなで問題点を話し合い方針を決めることで、患者さんや家族に対しての一貫したケアを行うことができる。

緩和ケアではケアする分野があまりにも大きすぎて一人では手に負えない。一人一人、ひつつひとつの職種だけではどうにもならない問題でもこうしてた職種のスタッフがあつまり力をあわせることによって、患者さんや家族のための大きな力となると思う。


PS.
私がこのMDTミーティングに参加したのは実はホスピスに就職してオリエンテーション中に行ったっきりだったのでかなり前・・・。
それなのに、いきなりチャージナースとしてミーティングに出るのはすごーく気が重かった・・・
英語を話すことには慣れているけど、人前で話すのはやっぱり苦手。緊張した。

ホスピスはスローすぎる?!

最近新しいスタッフが何人か仕事を始めている。
その中の一人、看護師のケイ(仮名)はNHSのMAU(medical assessment unit)で働いていたそう。
その日の病棟は患者さんが8人に対してチャージナース、私、ケイ、看護助手さん2人だったけど、隣の病棟から途中で応援が来たのでそんなにあわただしくなく、私はいい感じのペースで仕事できているなと思っていた。

ケイといろいろおしゃべりしていたら、
「この職場はみんなスローすぎる!信じられない!」といわれた。

ケイの前の職場のMAUは内科系の疾患の患者さんを受け入れる病棟でA&Eや自宅から直接入院してきて、その患者さんの疾患に適した病棟へ振り分けていく、または退院という感じだそうで、患者さんの入れ替わりがとても激しいそう。

私の働いているホスピスは2つ病棟があり、それぞれ10床ある。しかし、両方満床になるのは稀。特にいまだにスタッフ不足が解消されていないので満床にならないように受け入れを少し減らしている。

ホスピスに患者さんが入院してくるとまず飲み物などを提供してゆっくりしてもらう。そして医師による診察が始まる。医師もベットサイドの椅子に座ってゆっくり話を聞いていく。そして家族とも話をするで診察時間は1時間以上になることもある。
ホスピスで働いている医師は現在合計で6人いるが、パートタイムの医師もいるので1日に働いている医師は2・3人。なので1日の入院の受け入れは2人くらいが限度になる。

また看護スタッフは朝の勤務帯だと1病棟に看護師2・3人、看護助手1・2人いる。夕方の勤務帯でも看護師と看護助手あわせて1病棟に2・3人働いている。

さらに・・・
ケイ「この間なんて、たかが輸血ごときに医師と看護師が午前中おおさわぎして!」

(この患者さん、何度も化学療法をした後だから抹消の血管がもろすぎて血管確保できなかったのよ・・・。でも、どうしても輸血をしてから退院させてあげたかったのよ・・・。)


ケイ「尿婁のガーゼ交換に看護師が2人も付きっ切りで1時間もかかって!イライラしてきてみてられなかったわ」

(たまたま尿婁のケアしたこと無い看護師だったのよ・・・。そんなにしょっちゅう尿婁がある患者さんは来ないし。それにこの日は忙しくなかったから、この患者さんは不安が強いからみんなでおしゃべりしながら和気藹々とやってたのよ・・・。)


ケイ「1人の患者で退院の処方渡すだけで30分以上もかかって!」

(この患者さんは状態が悪いけど本人たっての願いで退院するから、薬の説明や退院前にゆっくり話をしておきたかったのよ・・・。)

「私、(職場の)選択間違えたのかしら?!」といわれたときには
「ここはゆったりとした雰囲気で患者さんや家族にケアをしていくところだからね、MAUとはずいぶん違うからはじめは戸惑んじゃない?」といってみたけど。
ケイも緩和ケアに興味があってここへ就職してきたわけだけど、MAUと比べたらホスピスは時間がゆっく~り流れていると感じるのもムリは無い。

たしかに、MAUでホスピスのようなペースで看護師が仕事していたら病棟が回っていかないだろう。
でもホスピスでMAUのようにあわただしい雰囲気で看護師が働いていたら患者さんも家族も落ち着かないと思う。

それぞれの病棟、病院には専門性があるから、それぞれにあった働き方があると思う。
MAUではテキパキと仕事のできるスタッフがいるだろうし、ホスピスではじっくりと患者さんや家族と向きあってケアするスタッフがいるだろうから・・・。


私自身は外科的な看護はあまり好きではないし、あわただしいところも苦手。だからA&EやMAUなどで働いている人はバリバリ仕事しててすごいなあと感心してしまう。私にはできないわ・・・。

家族サポートのためのホスピスへの入院

日勤勤務にかわり2週間半経ち、なんとなく日勤の仕事にも慣れてきた。
当分はチャージナース(その勤務帯の病棟責任者)の下で働くからのんびり仕事を覚えていけばいいやなんて思っていた。でも、スタッフが病欠だったり、人数調整で私がチャージナースになる機会がけっこうある・・・。
まあ、分からないことは看護助手さんに聞いたり、ホスピス全体のチャージナースへ聞きに行ったりしているので何とかなっているけど。
でも今まで一緒に働いていた夜勤看護師の仲間に申し送りをするというのはなんだか変な感じ。(笑)

ある日、ドロシー(仮名)という患者さんが入院してきた。
彼女は癌だが、それに伴う症状はうまくコントロールされており、日常生活もほぼ自立しているという患者さん。
はたからみたら、ドロシーはなぜホスピスに入院してきたの?と思うかもしれない。

ドロシーはレスパイトケア目的でホスピスに入院してきた。
(レスパイトケアとはいわゆる短期入所のような感じでケアをしている家族のための休養、ホリデーや用事があって患者さんのケアができないときに、ホスピスに1・2週間入院してもらう。)

ドロシーの娘さんは働いているもののまだティーンエージャー。母親の病状を直視できないでいるらしい。
ドロシーの兄弟もとても親身にドロシー親子を看てくれているが、やはり娘さんの苦悩はかなりのものらしく、そしてドロシー自身もそれが心配でならない。そんな二人の親子関係に危機が訪れてしまったのだ。
さらにドロシーの死後、死別のサポートが娘さんには必要だろうということでドロシーの訪問看護師からホスピスに依頼が来たのだ。

ここでファミリーサポート看護師の出番。
このファミリーサポート看護師は病棟で働く看護師が兼任しているわけではなく、家族のサポートを専門にしている看護師。彼女はもう10何年もこの仕事をしているベテランの方。大学で緩和ケアの修士号もとっている。
ファミリーサポート看護師は患者さんの在院中だけでなく、死後も家族のサポートを行っている。

もちろん、このファミリーサポート看護師一人だけで何とかするというわけではなくて、彼女を中心にスタッフみんなでサポート体制を整え、退院へ持っていく予定になっている。

まだ若い子供をひとり残して逝かなければならない母親・・・。
大切な母親を失くしてしまう子供・・・。
この二人の関係が少しでもいい方向へ向かい退院することができることを願っている。

ホスピスは患者さんだけのためではなく、その家族のためでもある。
治癒の見込みの無い疾患を抱える患者さんにケアが必要なのはもちろんのこと、その家族の心のケアも私たちホスピスのスタッフの仕事だということを多くの人に知っておいてもらいたいと思う。


以前にも何度かファミリーサポート関連の記事も書いているので、もし興味ありましたら見てみてください
・Family support[2006年03月15日(水)]
・私がホスピスを勧めるわけ[2006年03月04日(土)]
・悲しみ[2005年10月18日(火)]


PS。
私はドロシーのいる病棟とは別の病棟で働きだしたので、どうしているかなーと思ったら、暇そうにホスピスの中をぶらぶらしているドロシーを発見・・・。
声をかけると「会いたかったわ、ダーリン!」といって抱きついてきた。
「やることなくって暇なのよ~。TVも5チャンネルしかないし。(ドロシーの家にはSKYTVがあるそうな)」
残念なことにドロシーの病棟には一緒におしゃべりできるような患者さんはいないので、スタッフが話し相手になっているものの、暇をもてあましているようだった。

週に一回ホスピスでデイケアを行っているので、デイケアのある日は入院患者さんもデイケアに参加していろいろ作ったり、おしゃべりしたりすることができるが、それ以外の日はドロシーのような状態の患者さんにとっては病棟は静か過ぎて暇をもてあましてしまう。
何か病棟でもできるアクティビティがあればいいなあ・・・と思った。



2 minutes silence

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、昨年7月7日におこったロンドン同時多発テロに巻き込まれた被害者・犠牲者の方々にささげる黙祷が7月7日の正午12:00より2分間行われるそうです。

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(イギリスの情報掲示板:U.K. Mumbo and Jumboのお知らせより)
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