英国ホスピスコラム


イギリスの病院でマクミラン緩和ケア専門看護師
(Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist)として働くナースのブログ

2006年04月

ホスピス・緩和ケア病棟で「治療しない」は誤解

YOMIURI ONLINE 読売新聞で興味深い記事を見つけた
企画・連載 生きる 緩和ケア病棟から (9)「治療しない」は誤解(2006年4月21日付)

読売新聞が全国153か所の緩和ケア病棟(ホスピス)を対象に行ったアンケート(回答110施設)をもとに現場が直面している課題をあげている。

はじめに取り上げられているのが「誤解されている」という現場の悩み。
ホスピス・緩和ケア病棟=死ぬ場所というイメージ。
また一般だけでなく、医療現場においても認識不足も指摘されている。

たしかにホスピス・緩和ケア病棟ではターミナルケアも行うので「死を迎える場所」というのは事実なのかもしれない。
しかし、緩和ケアがターミナルケアのみではないし、何も治療しない場所というのはまったくの誤り。

この新聞記事の中で研有明病院の向山雄人医師がいわれるように、私も緩和ケアは「積極的な医療」と思う。
治療・ケアの最終ゴール設定・目標設定が急性期医療とは違うだけで、緩和ケアでは患者さん家族の安楽に対して積極的に治療は行われていると思う。

イギリスのホスピスでも、抗がん剤による化学治療により、より患者さんの安楽の確保が期待できる、QOLの向上が期待できる場合、イギリスのホスピスでも患者さんを病院へ転送し化学療法を行っている。
また、骨転移の痛み、などに対しても症状緩和目的で放射線療法もけっこう行われている。この場合も病院へ日帰りで放射線療法を受けに行くことになる。

また、貧血により倦怠感が強い、呼吸困難感が強い場合、それらの症状の緩和目的で輸血もホスピス内で行われる。
脱水により口渇が強い、吐き気がひどくて食べれない、などの場合でも静脈から点滴または持続で皮下に点滴することもある。(参考までに過去記事:ホスピスでのIntravenous Administration

最近、症状コントロールで入院していた患者さんの痛みがどうしてもコントロールできず、病院へ転送し精密検査を行ったところ腸穿孔が見つかったケースがあった。
その患者さんはすでに癌自体の治癒のための手術、化学療法や放射線療法は適応ではないと診断されていた。
しかし、その腸穿孔により激しい痛みがあり、予後が急激に短くなりかねない状況。
病院に転送され、数日後、その患者さんは手術を受け、人工肛門を作った。
このおかげで、痛みは改善され、患者さんも病院から直接家に退院したそう。

たしかに、急性期病院にいる患者さんが静脈から点滴をいれ、心電図をつけ、定時検温をうけ・・・などと比べるとホスピスでターミナルケア目的の患者さんは点滴もしていないし、心電図もつけていないと状況はかなり異なる。
でも、全身状態が悪化しているターミナルケアの患者さんには静脈からの過剰な点滴は逆に苦痛になりかねない。気道内の分泌物が増加し、ガラガラ、ゴロゴロという喘鳴が強くなってしまったり、手足のむくみがひどくなってしまい、患者さんにとって苦痛になってしまうこともある。

心電図や時間ごとのバイタルサインチェックもターミナルケアの患者さんには本当に必要なのだろうか?血圧は測らなくとも脈を触れればその強さをみることもできる。腕を締め付ける必要はない。
時間ごとのバイタルサインチェックのたびにそばにいる家族にどいてもらう必要があるのだろうか。数字としてバイタルサインを測定しなくとも、状態の変化のサインは、顔色、呼吸状態、手足の暖かさ、などを見るだけでも観察することができる。
心電図のコードもつながれているという精神的な苦痛にもなりかねない。

急性期医療で当たり前のように行っている行為をホスピスや緩和ケア病棟で行わないのは患者さんやその家族の苦痛の緩和を第一に考えたとき、それは必要ではないから行われないのであって、けっしてその行為を放棄しているわけではない。

むしろ、患者さんの安楽を確保するためであれば、麻薬は上限なく投与されるし、鎮静剤も積極的に使われる。

患者さんとその家族の苦痛の緩和・安楽の確保のために積極的な治療が行われているのがホスピス・緩和ケア病棟だと私は思う。

また緩和ケア病棟における診療報酬(医療費)についても書かれていた。
一般病棟では、行った医療・ケア・薬代に対して診療報酬を医療機関が受け取る「出来高払い」が基本なのに対して、緩和ケア病棟では、治療の内容にかかわらず医療費が一定の「定額制」になっているそう。そのために高価な薬を使ったり、体制を整えたりすればするほど、医療機関の負担が増してしまう仕組みになっているのだという。

これでは病院経営を重視する側と現場のスタッフ側にひずみができてしまうと思う。
また質の高いケアを提供したいと思うスタッフが、現実とのギャップに悩み、ストレスとなってしまうのがとても心配。
どうかこの状況を改善してもらいたいと思う。

イギリスにあるホスピス、緩和ケア病棟は大きく分けてNHS(ナショナルヘルスサービス)、チャリティ団体、プライベートのいずれかによって運営されている。多くのホスピスや緩和ケア病棟はNHSとチャリティ団体で運営されており、患者さんの治療にかかる費用、滞在費は一切無料。プライベートのホスピスまたは緩和ケア病棟は全額自己負担または個人の加入している保険でまかなうことになる。

私はチャリティ団体の運営するホスピスで働いているが運営資金の大半を寄付に頼っている
(参考までに過去記事:ホスピスを支えるちから
ホスピスの中には資金調達を専門にしている部署があって、Fundraiser(資金調達係)がホスピスの中に6人働いている。しかし、経営は苦しく、赤字。ホスピスを運営していくのには莫大な費用がかかる。

日本のホスピス・緩和ケア病棟にFundraiser(資金調達係)がいるのかは私は分からないが、限られた予算の中でよりよいケアを提供していくためにも、Fundraiser(資金調達係)、ボランティアのオーガナイザーの存在も重要になってくると思う。

癌でない患者さんと緩和ケア・ホスピス

ホスピス・緩和ケアというと癌の患者さんのための施設・病棟とイメージしている人が多いかもしれない。実際日本のホスピス・緩和ケア病棟では非悪性疾患の患者さんを受け入れているところはそれほど多くないと思う。

イギリスのホスピス・緩和ケア病棟は入院対象を癌の患者さんだけに限らず、WHO(世界保健機関)の定義にもあるように進行性の治癒不可能な疾患(advanced progressive and incurable disease)、生命が脅かされている疾患(life-threatening illness)としている。

たとえば、クロイツフェルトヤコブ病、運動ニューロン疾患、パーキンソン病、アルツハイマー、進行性核上性麻痺、他系統萎縮症など、心不全や慢性呼吸不全の末期状態にある患者さんも受け入れている。


少し前、Nursing Homeに入所中のMND:Motor Neuron Disease(運動ニューロン疾患、筋萎縮性即索硬化症、進行性球麻痺、原発性即索硬化症などの総称)の患者さん、レイ(仮名)をターミナルケア目的で受け入れて欲しいと依頼が来た。
”かなり状態が悪い”とのことで、すぐに入院の運びとなた。

救急車で転送されてきたレイは・・・・
たしかに状態は悪いが、今すぐ死に直面している状況にあるとはいえない状況であった。

疾患によって首から下が麻痺してしまっているので、指をうごかすことすらできず、日常生活すべてにおいて介護が必要な状況だった。また筋肉の萎縮により、呼吸困難もときおりみられ、食事や水分の飲み込むための筋肉も萎縮してきていたので経口摂取はペースト状のものをゆっくり時間をかけて飲み込んでいくという状況だった。
麻痺のために、ナースコールを押すこともできない。

しかし、レイの思考能力には問題はない。
自分が思っていることをすることができず、すべての介助を他人に頼らなければならないのは身体的のみならず、精神的にも相当な苦痛であると思う。

ホスピスにやってきたレイは”ケアスタッフ不信”だった・・・。

実はレイは入所していたNursing Homeでひどい扱いを受けていたかららしい。

ナースコールが押せないので、叫んでスタッフを呼ぶレイに対してケアラーは黙れ、と怒鳴り返したり・・・・
あげくに
"You are nuisance!"(あんたは厄介な人だ!)といわれたそう。

ケア度が高い患者さんがたくさんいて、ケアスタッフの人数も少なく、一生懸命ケアしようとしても思うようにできず、イライラしてしまうこともあるかもしれない。
でも、ケアスタッフはそのイライラをぶつける矛先を間違えてはいけないと思う。

レイは満足なケアが受けられず、そのような扱いをうけつづけ、すっかりケアスタッフ不信に陥り、ホスピスに避難してくるような形でやってきたのだった・・・・。

ホスピスにレイがやってきて1週間、徐々にスタッフとも信頼関係ができてきたのか、レイは冗談をいって笑ったりするようになった。

しかし、ホスピスがいくら進行性の治癒不可能な疾患や生命が脅かされている疾患を対象にしているといっても、症状のコントロールがついており、落ち着いた状態にある患者さんは退院またはNursing Homeへ転院となる。

レイも状態的には落ち着いているので、そのうちNursing Homeへ転院となる予定。

どうか、いいNursing Homeが見つかりますように・・・。

課題、終わった。

今日、大学に行って課題を提出してきた。
今回のモジュールはImpact of painというもので、痛みの与える影響、衝撃などを考えていくものだった。

課題の中で以前受け持った患者さんの事例をつかって痛みと不安に焦点を当てて論文を書いていた。
この患者さん、日勤帯ではほとんど痛みを訴えなかったのに、夜勤帯では痛みのあまりずーと叫んでいるようなときがあり、困ってしまったのだ・・・。

夜間の痛みの増強因子として不安を取り上げ、痛みと不安の相互関係などを考えていった。

簡潔にいってしまうと、不安が増すと筋肉が緊張してしまい、痛みを増強させてしまう。またゲートコントロールの理論で痛みを伝えるメカニズムからも不安が強いと痛みを増強させてしまう。
また日中は医師やほかのスタッフの回診もあれば、訪問客もいるので痛みから気もそれることもある。
逆にコントロールできていない痛みが続くことにより、不安を増強させることとなる。
その結果、痛みの増強→不安の増強→痛みの増強→不安の増強→・・・・と延々と続く悪循環を招いてしまう。
この悪循環を断ち切るのに、ゲートコントロールに注目してみた。

しかし、相変わらず私の英語力。文献を読むスピードの遅さといったら・・・・。そののろさのおかげで課題の出来上がりはいつも締め切りぎりぎり。
書くほうはそこまで困らないのだが、(細かな文法ミスを除いたらだけど)

でも、よく考えたら小学校とか中学校の頃、夏休みの宿題をぎりぎりであわててやるタイプだったから、英語力のせいだけじゃなくて、私の性格の問題なのかも・・・。

この大学の課題、締め切りまえに自分のスーパーバイザーや講師に見せて、アドバイスをもらい、そこからさらに学びを深めていかなくてはならない。この学びの課程も評価に反映される。

実は、今回、このモジュールの講師に見せることができなかった。
なぜなら、彼女、締め切り1週間以上前からホリデーをとっていたのだ・・・・。

困ってしまって、泣きついた先は私の働いているホスピスの教育担当者。
この教育担当者さん、私の行っている大学の講師もしている。
アポ無しで突然押しかけたにもかかわらず、やさしくいろいろアドバイスくれて、助かった~。

おまけに「ここはいいポイントついてるわ!」と言っていただけた箇所がいくつかあって、ほめられるとすぐ調子に乗る私としては、ほっと一息。

無事に提出できたのも、スーパーバイザーとホスピスの教育担当のおかげ。
感謝しつつ、次のモジュールこそは締め切り間際にあわてないようにするぞ!と心に誓う・・・。


課題をがんばった自分へのご褒美として、大学からの帰りに中華食材店へいき、お米や漬物、ラーメン、調味料いろいろ買ったら、おまけで今月末までの賞味期限のごま油をくれた。ラッキー?


さて、私はパートタイムで勉強しているので、今学期のモジュールは終了。
大学のほうは9月までお休み。
ちょっとの間、のんびりしよう。
でも今日から7日連続夜勤に入るんだけどね・・・。

ホスピス空きベッド待ち、1326人死亡

ホスピス空きベッド待ち、1326人死亡…読売調査
(読売新聞 YOMIURI ONLINEより)

読売新聞が全国のホスピス・緩和ケア施設、153施設を対象にした調査を行った結果(2005年4月~06年3月)、ホスピスの空ベット待ちの間に1326人が死亡したとのこと。

またベットがあくのを待っている待機患者数は少なくとも全国で736人、待機患者数の最多施設では50人、一施設あたりの平均待機患者数は7.6人。

これだけ多くの患者さんがホスピス・緩和ケア病棟への入院を望みながら、その前に亡くなってしまったというのはとても残念。
(しかし、緩和ケアは一般病棟でも行われているところもあるし、ホスピスや緩和ケア病棟の中でなければ受けられないというわけではないので、空きベット待ちの間に適切なケアが受けられていたと願いたい・・・。)

この記事中の山崎章郎医師のコメントにもあったが、ケアの充実を図ること、地域で連携することは大切であると思う。


私の働いているホスピスはベット数20の独立型ホスピスだが、満床になるのは稀。
そしてホスピスへの入院依頼は患者のかかりつけ医であるGP,訪問看護師(District nurse)、癌専門看護師(Macmillan nurse)、病院の緩和ケアチームなどからあり、依頼のフォームを受け取り、毎週ミーティングが開かれ患者さんの状態により入院予約を入れていく。
依頼があった時点で患者さんの状態が悪いときには、即入院になる。
(参考までに過去記事ホスピスへのReferral

またここのホスピスから車で約1時間以内の場所にほかにも3箇所ホスピス・緩和ケア施設がある。そのため、これらとも連携をしており、入院が必要な患者さんがいるが、空きベットがないというときには、近辺のホスピスへ入院となる。


日本ではホスピスの数は年々増加しており、全国の緩和ケア病棟承認施設は2006年2月1日現在153施設2890病床(緩和ケア Vol.16 No.2 March 2006 より)
でも、病床数は都道府県によってかなりばらつきがある。

日本でのホスピス・緩和ケア施設の増加も必要だと思うが、今すぐにはベット数を増やすというのは不可能だろう。
それに、ベット数を増やすことにこだわり、ケアの質のがお粗末になってはならない。
専門知識を持ったスタッフの確保、スタッフの教育、ケアの質の向上も忘れてはならないと思う。
また近辺地域のホスピス・緩和ケア病棟で連携をとり、空きベット待ち患者さんの対応がスムーズにいくよう、施設同士の連携、医療者側からの情報提供も強めて言って欲しいと思う。


身体を張って笑いをとった・・・?

最近、大学の課題の締め切りを9日後に控えて、またしてもぎりぎりになって切羽詰ってやっている
大学の課題を締め切りぎりぎりでやらない、余裕を持ってやる!と誓ったNew year resolutions は早くも崩れた・・・・。落ち込み

ようやく文章のほうも2500語を超えて終盤に差し掛かり、スーパーバイザーからは「いい方向に来ている、あと少し!」といわれゴールは見えかけてきたところ。


最近の仕事での出来事といえば・・・。
ある朝のこと。患者さんの体の向きを変えて、掛け物を整えていたら、ブランケットがベットの金具の隙間に引っかかっていた。
ぐいぐい引っ張ってみたものの、とれない。

しゃがんでおもいっきりえいえい!と引っ張ったら・・・・

とれた!

でもその勢いで私は後ろにころがり派手にしりもちついた・・・。
私のユニフォームはワンピース。
私のセクシーな(?!)両足は丸見え。

そんなとき、斜め後ろから「ブフッ!」と噴出した声が・・・。

同じ病室の患者さんがそんな私の姿を見て大笑い。笑い

この患者さん、ターミナルケア目的での入院でここ数日とても落ち込んでいて、目を閉じて外界からのコンタクトを遮断しているような感じだった。

そんな患者さんが笑ってる!

「いやだな~、パンツ見えなかったよね?!」といったらニコニコしてた。

ほかのスタッフからもこの様子を見て
「すごいわ、H i!あの患者さんをあんなふうに笑わすなんて!」とお褒めの言葉をいただいた。
その後もスタッフ間でこの様子は”身体をはって笑いをとった”として、うわさになり、「見たかったわ!」なんていわれる始末。

結構恥ずかしかったが、あの患者さんの笑顔を見れたということで、よしとしておこう・・・。

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