英国ホスピスコラム


イギリスの病院でマクミラン緩和ケア専門看護師
(Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist)として働くナースのブログ

2006年03月

How to have a good deathをみて

以前のブログ記事にてみなさんにお知らせしたドキュメンタリー番組「How to have a good death」がBBC2で昨日放送された。

2005年7月に行われた調査を踏まえ、数人の患者の様子を追いながら、緩和ケアコンサルタント(専門医)、病院の緩和ケアチームの様子がとりあげられていた。

興味深かったのはCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)の患者さんのケース。彼は自宅療養しているが、呼吸困難があり、奥さんの介助無しには生活できない。しかし、十分なサポートが得られていないという。
”癌”と診断されていれば、財政的にも、精神的にももっとサポート(たとえば、マクミランナースのサポートなど)が得られるのだが、彼のような慢性疾患ではそのようなサポートが十分に得られないと。
番組ではこの現状(癌という病気になるか、このような慢性疾患になるか)を「Lottery(運、くじ引き)」と表現していた。

慢性疾患であっても余命に限りがある場合は緩和ケアの対象になるので、ホスピスにもCOPDの患者さんや心不全などの慢性疾患の末期の患者さんが来ることがある。
しかし、これらの慢性疾患の患者さんが状態が悪いが末期とははっきりといえない場合(このあたりの線引きは難しいのだが)サポートが十分に得られていない現状にはショックを受けた。

またこの患者さんは今後状態が悪化した場合の蘇生を拒否する意向を明らかにしていた。
しかし、その手続きをどのようにしたらよいかで悩んでいたようだったが、病院の緩和ケアチームがサポートをしていた。


そのほかにも、癌の患者さんで病院から退院し、家で亡くなるまでの様子を取材されていた。
末期の癌でありながら、自宅へ帰りたいという強い思いを持っていた。自宅へついたときの彼の笑顔がとっても印象的だった。
「あなたにとってGood deathとはなにか?」という質問にもちゃんと答えていた。
もちろん、この患者さんは自分がもうすぐ死ぬだろうということは知っていた。時折涙を見せながら話す場面もあったがしっかりとして口調で答えていた。

この患者さんからは”自分がどのように死を迎えるのか” ”どのように最期を生きるのか”というメッセージを受け取ったきがした。


緩和ケアコンサルタントの話の中で「悪いニュースをどう伝えるか」という質問に
「悪いニュースは悪いニュース。どうがんばってもいいニュースには変えられない」という言葉が印象的だった。要はその悪いニュースをどう伝え、サポートしていくかなのだと。

ホスピスで仕事中、家族がそばにいないときに患者さんが亡くなってしまうケースがある。私は夜勤スタッフで、家族とはあったこともなく、電話ですら話したこともないのに、患者さんの死亡を電話で伝えなければならないことがある。
そういう電話をするのが、とても苦しい。
そのコンサルタントの言うとおり、患者さんが亡くなってしまったという事実は変えられない。
どう伝え、サポートしていくのが私の役目になるのだ、と思った。


ほんの少しでしたが、病院に入院してきた癌の末期患者さんのケースをもとにThe Liverpool Care Pathway for the dying patient(LCP)も紹介されていた。
NHSのプログラムの一環であるCancer Service Collaborative Improvement Partnership (CSCIP)と Marie Curie Cancer Careのサポートにより、ホスピスで行われるケアをほかの施設で提供する場合のケアの質・向上を目的に作られたケアモデルのプロジェクト。


ランダムに選ばれた16歳以上の1027人を対象に行われた調査で66%あまりの人がどのように死を迎えたいか話し合ったことがないと答えていた。
やはり”死”というものはタブー視されてしまうものなのだろうか・・・。

(BBCによるこの調査結果の要約はこちらのWebsite
 またこの調査の全結果はこちらのWebsiteを参考に。)

この番組が多くの人に”自分はどんな死を迎えたいのか”と考える、また”自分の愛する人はどうなのか”と話し合うきっかけになったらいいなと思った。

以上、私の意見も交えての番組の紹介でした
番組を見た人・見なかった人も意見・感想ありましたらぜひコメント欄へお願いします笑顔



鐘
番組を見逃してしまった人、またもっと詳しく知りたい人はこちらのBBCのWebsiteを見てみてください

愛する人が亡くなるとき・亡くなったときのためのPractical Checklistなんてのもあってイギリスでの死亡時に必要な手続きなどが分かりやすくまとめられています。

Summer time

まだまだ寒いのに、イギリスは今日からサマータイムになった。
1時間時計の針が進み、日本との時差は8時間になる。

サマータイムの夜といっても、ホスピスでなにか特別なことが起こるわけでもなく・・・・。
夜勤スタッフが大喜びしているくらい。

私たち夜勤スタッフは、このサマータイムに変わるときに勤務するのはたいへんラッキー。
時計の針が進むために、1時間仕事の時間が短くなるのだ!
しかも、この進んだ1時間分の給料も払ってくれる!
そして土曜日の時給は基本時給の60%増!

夜勤スタッフには患者さんたちが寝る前に患者さんの腕時計やベットサイドの置時計の時間を変えるという大事なお仕事があるが。

去年だったか、おととしだったかのサマータイムに変わる週末も夜勤をしていたが、ほかの夜勤スタッフともども浮かれていたからか、間違えて一日早く金曜日の夜に患者さんの時計を変えてしまったことがある。張りきって脚立も持ってきて病棟の壁掛け時計まで変えていた・・・・。
(浮かれすぎ・・・?汗
そのため夜中にみんなでそっと懐中電灯をもって患者さんのベットサイドの時計を直してまわった・・・。
まあ、こんなマヌケな失敗も翌朝の患者さんとの笑いのネタになるのでよしとして。

仕事が1時間短くなったと大喜びの夜勤スタッフに比べ、日勤スタッフで遅番をしたのに早番ででてきた日勤スタッフはちょっと気の毒。

私はサマータイムになると夏がもうすぐやってくる気分でなんだかわくわくする。
イギリスの夏は日本の夏に比べると暑くなく過ごしやすい。
そして夜も9時10時まで明るいのでなんだか得した気分になれる。

ただ、夏の間は昼間明るすぎて夜勤期間中なかなか寝れなくて困るけど・・・。

How to have a good death

イギリス在住の方へのお知らせです

3月30日夜9時よりBBC2にてドキュメンタリー番組
「How to have a good death」が放送されます

Esther Rantzenによるイギリスでの緩和ケア、死についてのドキュメンタリー番組です

BBCのWebsiteも参考までにご覧ください

またこのページからダウンロードできるPlanning a Good Death Bookletも興味深い内容になってます。

Indefinite leave to remain

緩和ケアにはまったく関係のないお話ですが・・・。

イギリスで日本人が働くにはこの労働許可書(Work Permit)が必要。
看護師は不足しているためWork Permitの発行を拒否されることは稀だけど、最近のNHSの求人を見るとWork Permitが必要な人はあまり歓迎されていない印象を受ける。

イギリスの通称永住権と呼ばれるビザ、Indefinite leave to remain(無期限滞在許可)はこのWork Permit保有4年後から申請することができる。
今年の4月3日までは・・・。

去年あたりからうわさでは聞いていたが、4月3日以降、このIndefinite leave to remainの申請はWork Permit保有5年後からに変更になる。
詳しくはこちらHome officeのWeb siteを参考に

私はアダプテーショントレーニングをスチューデントビザでやっていたので、Work Permitをとってもらえたのは看護師として働き出してから。
来年このIndefinite leave to remainが申請可能だったのだ・・・。
カレンダーをみてはあと何年何ヶ月、と心待ちにしていたのに!
しかしこの法改正のおかげで2008年まで待つことになってしまった。
かなりショック。

Indefinite leave to remainがあれば転職の際、ビザの問題で頭を悩ますこともない
Agency NurseやBankとしてほかの病院で働くことだってできる
看護師以外の職につくことだってできる
ベネフィットだってもらえる

Work Permitでは記載されている雇い主以外では働くことはできない
つまり私はこのホスピス以外で働くことが現在はできない
税金は納めているものの、Work Permitではベネフィットは一切もらうことができない
そして何より、Work Permitでは働いていなければイギリスに滞在は許可されない

年々、ビザの申請料金も上がっていくし、申請基準も厳しくなっていく
ビザのこととなると頭が痛い
やはり私はこの国では外国人なのだと実感せざるを得ない・・・。

Family support

緩和ケアの役割のひとつに家族のケアがある。

WHO(World Health Organization:世界保健機関)でも

・offers a support system to help the family cope during the patients illness and in their own bereavement
・患者さんの療養中そして死別後に困難を抱える家族がそれらに対処していけるようサポートを提供する


と定義されている。

以前にも少し書いたことがあるが(過去記事:悲しみ にて)イギリスのホスピスには家族の死別ケアを専門に対応する看護師またはサポートワーカーがいる。
(family support sister, bereavement support workerなど呼び方はざまざま)


ある日の夜勤、出勤していくと個室の前の廊下に人があふれていた。おろらく10人以上はいた。10代の子供も数人いた。
(これはけっこう大変な状況かも・・・。今日は忙しくなりそう)と思いながら看護師のオフィスへ。

申し送りでは今日入院してきたヒルダ(仮名)の家族・友人が集まっているとのこと。
ヒルダはまだ50代だが、癌の末期。ターミナルケア目的で日勤帯に緊急入院してきた。
先週から急激に状態が悪化しており、家では症状がコントロールできない状況になり、彼女のGPから連絡があり、即入院となった。

すでにシリンジドライバー(Syringe Driver)と呼ばれる小さな持続皮下注射用ポンプで痛み止めの麻薬、吐き気止めの制吐剤、身の置き所のなさ、精神的苦痛の軽減のための鎮静剤の持続皮下投与が開始されており、ヒルダは時折身じろぎするものの、穏やかに眠っていた。

枕元にはヒルダの娘さんがいた。まだ10代だった。
さまざまな事情からヒルダとは同居しておらず、離れて暮らしていた。母親が癌とはしっていたようだが、ここ数週間のあまりの状態の悪化に彼女の理解はついていけていなかったようで、娘さんは泣きどおしだった。
そんな彼女をフォスターファミリーやヒルダの母親や友人が慰めている状況だった。
ホスピスの医師からもヒルダの死は近いといわれていた。

私たちは家族や友人に飲み物や軽食、椅子を提供したりしつつ、ヒルダの安楽をはかる。

世もふけてヒルダの友人はぽつぽつと帰り始めた。
母親の枕元を離れたくないという娘さんやヒルダの母親にリクライニングチェアや枕を渡した。

12時を過ぎた頃、ヒルダは安らかに眠っているかのようだけど、呼吸状態が不規則になってきた。そして顔色も悪くなってきた。
ヒルダの家族、友人みんながベットサイドに集まった。
そして、ヒルダの呼吸が停止。脈拍停止。

娘さんの鳴き声が響いた
「お願いだからもどってきて」
「逝かないで」
その泣き声に私もスタッフみんなも涙。

彼女のフォスターファミリーが慰めている
「お母さんは天国に逝ったよ。」「安らかにやっと眠れるんだよ」と。

ヒルダの呼吸停止から約5分。
私たちスタッフは家族や友人にお別れの時間を持ってもらうため退席しようとした。
娘さんは号泣している。

そのとき、ヒルダの胸の辺りが動いている気がした・・・。
気がしたのではなく、たしかにかすかに動いている。
そう思っているうちにヒルダは規則的に呼吸をしだした
まるで娘さんの「戻ってきて」という言葉に答えたかのようだった・・・。

だれかがヒルダの身体をゆすったわけでもなく。刺激を与えたわけでもなく。
5分以上呼吸が停止し、脈拍停止も私ともう一人の看護師が確認していた。

「やった!お母さんが戻ってきたわ!」娘さんは笑顔でそういった。
あまりの笑顔に周囲の大人やスタッフは困惑してしまった・・・。
ヒルダは呼吸をしだしたといっても、今にもとまりそう。

「でもね、お母さんはもうすぐ逝ってしまいます。きっとあなたにさよならを言う時間をくれたのですよ。」
私はそう娘さんにささやいた。

「私はさよならなんか言いたくない!お母さんは戻ってきたんだから。死なない!」
とまた泣き出してしまった・・・。

それから約15分間。ヒルダは弱々しいながらも息をしていた。
号泣していた娘さんもその間に少しずつ落ち着きを取り戻し、ヒルダの額にキスをして
「さよなら」といった。
それを見届けたかのようにヒルダが息を引き取った・・・。

そして1時間あまり。ヒルダの娘さん、家族、友人がお別れをし、私たちは飲み物を提供し、少し落ち着いたところで家族に死後の手続きを説明し、ホスピスからの家族への死別サポートの申し出をした。
とくに娘さんには必要だと思われた。

このヒルダのケースではホスピス入院後約半日でなくなってしまったため、私たちスタッフも家族とゆっくり話したり、信頼関係を築いていく時間も持てなかった。
家族もここ数週間のあまりに急な展開にひどく心を痛めていた。

ホスピスのFamily support sister(家族サポート担当看護師)へはすべての患者さんが亡くなったときに書類を提出するが、今回は特にサポートの重要性が高いとして依頼をまわした。

後日、Family support sisterが家族に連絡を取り、ヒルダの娘さんのケアにもかかわってくれるだろう。

緩和ケアは患者さんが亡くなったらそこで終わりではない。
のこされた家族の悲しみ、苦痛もさまざま。
それをケアしていくことも緩和ケアの役割であることをみなさんに知っておいてもらいたいと思う。


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