英国ホスピスコラム


イギリスの病院でマクミラン緩和ケア専門看護師
(Macmillan Palliative Care Clinical Nurse Specialist)として働くナースのブログ

2005年08月

愛、いれときました・・・

マイクは60歳代の癌の患者さん。痛みが彼の一番の問題で症状コントロール目的で入院してきた。

ある夜、出勤していくと申し送りで
「マイクは下肢に痛みを訴えたのでParacetamol投与しても効かなかったので、OxyNormを二回投与して、いま少し落ち着いたようす。」とのこと。

マイクの所へいってみると
「まだ痛みが取れていないんだよ。横になれないし。どうしたらいいんだろう」
といっている。

どんな感じの痛みかを聞いているとどうやら神経系の痛みのようす。22時の内服にはそのような痛みに良く効く痛み止めが処方されているし、医師の記録を見るとその痛み止めの増量が必要か?ともかいてある。時間は21時45分。OxyNormを繰り返しで投与するよりも22時の薬をあげたほうが良いかも・・・と判断。

マイクは「本当に効く?これがきかなかったらどうするの?」と不安半分、冗談半分のように聞いてきた。
「信じなかったら効かないよ。私のことも信じたら効くから。もし効かなかったら私のこと恨んで良いし(笑)効かなかったら呼んでね」と私も半分冗談っぽく答えた。

その後、何度か様子を見にいったがマイクはいびきをかいて寝ていた。
マイクが信じたおかげなのか(?)、彼は一晩中ぐっすりと眠って、朝になっても痛みはなかった。


「あのあと良く寝れたよ。僕に隠れて実はこっそりなにか飲ませたんじゃないの?」と朝の紅茶を持っていった私に聞いてきた。
「そんなことするわけないじゃない。あ!そういえば、黙っていれたものがあった!”My love”音符」と答えておいた。

それからというもの、マイクに薬をもっていくと「ちゃんとアレいれてくれた?」とにこにこして聞いてくる。

もちろん、どの患者さんの薬にも私の愛がたっぷりはいってます!
(そんなもんいらんといわれたら悲しいが・・・。悲しい

ホスピスでのIntravenous Administration

先日、隣の市のNHSホスピタルへIntravenous Administration(静脈からの薬剤投与)のトレーニングにいってきた。
日本の私の働いていた病院では看護師が静脈注射、点滴、輸血など施行していたけど、イギリスでは静脈からの薬剤投与に関しては看護師はトレーニングを受けてからでないとできないのだという。他にも、採血、末梢からの静脈確保:べネフロンやサーフローなどの留置針、男性の尿道カテーテル挿入など、私は日本で当たり前のようにやっていたが、イギリスでは看護師はトレーニングを受けなければ実施することができない。

私の働くホスピスでは静脈注射はほとんど行われないため、静脈注射をできる看護師もほんの数人で多くの看護師はできない。
ホスピスで静脈注射をするケースは現在の所、輸血、輸血の際の利尿剤投与、そして高カルシウム血症に対して投与されるPamidronateくらい。輸血開始後の管理は看護師がしているが、いずれの場合も医師が投与している。

近年緩和ケアの概念も変わってきて、症状緩和目的で静脈からの薬液投与の機会も増えてきた。症状緩和のための化学療法も行われるようになってきた。
そして輸血も何年も前に比べると良く行われるようになってきたそう。
輸血をしてもそれが夕方または夜にずれ込んでしまって医師がいない時間帯に輸血終わるとルートをフラッシュできるスタッフがいないため、輸血は朝一番で開始され医師の勤務中に終わり、医師にルートをフラッシュしてもらうよう設定されている。(翌日も輸血がある場合、留置針を残しておくため生理食塩水でルートをフラッシュしておく。しかし、翌日に輸血・静脈注射をする予定がなければ留置針は輸血が終わり次第抜針している。)過去に何らかの理由で輸血がおくれてしまったために、このルートフラッシュのためだけに医師が居残っていたなんてこともあった。

そして創感染や肺炎に対しても静脈からの抗生物質投与も結構行われるようになったにもかかわらず、ホスピスで静脈注射ができる看護師がいないために、静脈からの抗生剤投与のためだけに近くのNHS病院へ患者を転送しなければならない。(一日2・3回の投与のを受けるために大抵数日病院に滞在することになる。)

静脈注射を受けるために病院へ転送される患者さんの負担を減らすため、そしてそのコスト削減のためホスピスでも看護師をトレーニングして静脈注射が受けられるようにしようというのだ。


ときどきPICC line(Peripherally inserted central catheter:末梢静脈から挿入された長期中心静脈カテーテル)やHickman catheter(体外ポートのついている長期用中心静脈留置カテーテル)が挿入された患者さんが病院から転送されてくることもあるが、ホスピスでは輸血、Pamidronateの投与、採血以外は使用していない。補液にも使っていない。

患者さんが食べれなくなること、飲めなくなることは症状の悪化から自然な流れである場合、補液は浮腫、痰や気管支分泌物の増加を招き患者さんにとって苦痛となるためホスピスでは補液は例外を除いて行われない。
補液を行う場合は、吐気、嚥下困難など何らかの理由の為に水分・食事摂取ができず、口渇など脱水症状による苦痛を訴えるケースなど。しかし、この場合でもホスピスでは静脈からは補液しない。

どのように補液するかというと、大抵夜間12時間の間に一リットルの生理食塩水の持続皮下注射が処方される。昼間は除去し、患者さんの日常生活に支障がない様にしている。
留置針は翼状針を使い、腹壁などに行うのだが、一リットルも皮下に入ったら痛くないのだろうかとか、投与部位が大きく腫れあがってしまうのでは?と心配で私は初めちょっと抵抗があった。
でも実際やっている患者さんに聞くと、開始直後は多少皮膚に違和感を感じるものの30分以上すれば特になにも感じなくなるという。そして結構吸収されていくので、サイトもはれぼったいような感じになるものの、それほど大きく膨れ上がったケースは見たことがない。
しかし、静脈とは違ってちょっとした角度、患者さんの体動などで滴下が変わりやすく時間通りに落とすのは困難。
ちなみにManual of Clinical Nursing Proceduresという看護の本を見たらこの持続皮下注射での補液は24時間以内のリミットは3リットルだそう。


Intravenous Administrationのトレーニングは講義が中心で、感染管理、説明義務、輸血、物品(カテーテル類、留置針、輸液ポンプなど)の説明、医薬品の説明、中心静脈カテーテル類の説明、そして薬液の計算方法など。

この薬液の計算方法、数学が好きな私にはたいして苦にならなかったのだが、一緒に参加したスタッフ(みなさんイギリス人)はこれがすんなりできずに大騒ぎ・・・。
イギリス人は計算が苦手なきがするのは私だけ???

例えばこんな問題。試しにやってみます?

1.生理食塩水1リットルを8時間で投与するよう処方されている。輸液セットは20滴/ml。1分間何滴で投与すれば処方どおり投与できるか?

2.Cefuroxime1.5gが四時間おきに投与するように処方されている。Cefuroxime1バイアルは750mgで最低注射用水6mlで溶解しなければならない。一回毎の投与時に何mlの注射用水が必要か?

3.Co-trimoxazole3200mgが一日二回投与の指示が出ている。Co-trimoxazole1アンプルは5ml、1ml中96mg含まれている。一回の投与量は何mlか?

答えが出せた人、コメント欄へどうぞ。プレゼントはありませんが・・・。

平和について思うこと

まもなく8月15日終戦記念日がやってくる。今年は戦後60周年と大きな節目を迎えている。
8月6日に行われた広島の原爆死没者慰霊式・平和祈念式、そして9日に行われた長崎の原爆死没者慰霊平和祈念式典の模様はここイギリスでもITV、BBCなどのテレビのニュースで取り上げられた。またBBCでは7日には広島に原爆投下を行うまでの過程を再現、被害状況を取り上げた一時間のドキュメンタリー番組も放送された。


何ヶ月前になるだろうか。私はハワード(仮名)という患者さんを受け持った。
ある日、ハワードに「キミは日本人か?」と聞かれた。
「はい」と答えると、
「お願いがあるんだ。日本の絵葉書をもっているのでなんて書いてあるか訳してくれないか?家族にいって家から持ってきてもらうから」と言われた。

翌日、出勤してハワードの所へ行くと丁寧にファイルされた数枚の絵葉書を渡された。
確かに日本の絵葉書だった。でもそれらの文章を読んで私はビックリしてしまった。

「○○くん、調子はいかがですか?シベリアは寒いです。冬になるとスケートができるそうです」
「XXくん 最前線でがんばっていますか?こちらもかわりないです。」
などと書かれていた。所々文字が薄くなっていて読みづらいところもあるが、内容からしてあきらかに戦時中最前線にいた兵士に送られたもののよう・・・・。

夜も遅かったのでハワードには朝までに訳しておくからといって、そのファイルを預かった。

そのときはどこでこれらを手に入れたのかハワードに聞くことができなかった。
戦争中、日本兵はイギリス人兵士を捕虜にし、残虐な拷問や労働を強いた。そしてそのもと捕虜の人々は日本政府へ謝罪と補償を求めているという。ナーシングホームでボランティアをしていた子がイギリス人の患者さんからの日本人だということで罵られたという話を思い出したから・・・。
そして日本の天皇・皇后両陛下がイギリスを何年か前に訪問したときのこと。もと捕虜の人々は訪問パレードに背を向けて抗議行動を行った。

もしハワードがこれらの絵葉書を戦場で手に入れたのであれば、ハワードは日本兵と戦っていた?まさかもと捕虜だったのか?当時のことをよく知っているのであれば、日本に対して怒りを感じているのか?
いろいろ考えてしまい、ハワードがどのようなリアクションをとるのか怖くて、情けないけどそのときの私は戦争にふれるのをさけてしまったのだ。

仕事の合間に私はそれらの絵葉書に書かれていたことをそのまま英語に訳して紙に書いておいた。
次の日の朝、私が勤務を終えるときはハワードはまだ寝ていたので絵葉書と英語訳、そしてまた今晩来るからとメモを置いて帰った。

そして夜、出勤して日勤スタッフから
「ハワードはすごくH iに感謝してたわよ。あの絵葉書、とっても大切にしていたらしいわ。夕ご飯の後もずーっとながめていたわよ」
と言われた。

ハワードの所へ行くと、お礼を言われた。
あの絵葉書はハワードがミャンマー(旧ビルマ)で日本兵を追いかけているときに拾ったのだという。絵柄が綺麗だったのでファイルにしてとっておいたが、50年以上も何が書いてあるかわからずずっと知りたかったそうだ。
「日本とイギリスは戦争していた。でももう何十年も前の話だ。私たちは今憎みあったりするのではなくて二度とあのようなことがおこらないように考えていくべきだよね」と言われた。

たくさんの犠牲者をだして、今もなお人々の心に大きな傷を残して、国と国と間にもしこりをのこして。いまでも世界中の至る所で争いは絶えない・・・・。

日本では戦争の体験者である当時の様子を語り継いでいる人たちも高齢化し、今後どのように次の世代へ伝えていくか課題にもなっていると聞いた。

これらの歴史を過去のものとして片付けてしまうことのないように
いつまでも憎みあうことのないように
二度とあのような悲しいことがおこらないように
世界でいまだに争いが絶えないことから目をそらさないように
無関心にならないように
平和について考えていこうと思う

リボンリンクをさせていただいているぺこさんのぺっこり日記にも60年目の広島原爆の日によせて平和への思いが書かれていましたので、トラックバックさせていただきました。

ホスピスのFriendly Ghost達

私の働いているホスピスの建物はかなり古く、昔は貴族のお屋敷だったそうで、ホスピスに生まれ変わった

イギリスにはたくさんの歴史ある古い建物があり、ゴーストストーリーがある。もちろん、私の働くホスピスも例外ではない・・・。
私たち夜勤スタッフは誰もがホスピスに住むFriendly Ghostたち?に会っている。
ある日の夜勤でゴーストストーリーで盛り上がった。


幽霊看護師ヘレンの話
ナースステーションの前を丈の長いガウンをきた巻き髪の女性がティーカップを持って歩いており、そして女性の大部屋へはいっていった・・・。あまりのリアルな姿に、ヘレン、固まる。(笑)
念の為、大部屋を調べにいったが誰もいなかった。(この日は大部屋には患者さんもいなかった)
(実はこの女性、けっこう目撃されていて、ホスピスの創始者ではないかといわれている。)

幽霊補助看護師リアンの話
いっしょに働いていた看護師のパムが仮眠中のこと。パムはなぜか仮眠中いつも部屋のドアを空けたままにする。そして彼女はいびきがとってもうるさいことで有名(笑)
パムは寝ているはずなのに、「リアン、リアン・・・」と呼ぶ声が聞こえる。リアンはちょっと部屋をのぞいたが、パムは寝ているようなのでそのままきにもせずにいた。

そして交代でリアンが仮眠をしていたら突然パムに起こされた。
「リアン、なんでずっと私の名前を読んでるのよ?!」


幽霊補助看護師ジャネットの話
ある患者さんはナースコールを押さずに、スタッフを呼ぶとき自前の呼び鈴をつかっていた。
真夜中、突然その部屋の中で呼び鈴が落ちる音が聞こえた。なんとベットサイドのテーブルの上にあったはずの呼び鈴は部屋の隅に転がっていた。もちろん、患者さんはすやすやと寝ていた。そしてこの患者さん、呼び鈴を部屋の隅まで投げるほど力もなかったし、偶然落ちたにしてはありえない距離に呼び鈴はおちていた・・・。


幽霊補助看護師マリーの話
女性の大部屋の患者さんたちから
「昨日の夜メールナース(男性の看護師)がお世話してくれた」と言われたことがなんどかある。
たしかに夜勤スタッフの中に男性の補助看護師がいるが、彼はその日は働いていなかった・・・。
このメールナースの目撃証言?も結構多い。実は私もこの大部屋にいたほかの患者さんから「メールナースを見た」と言われたことがある・・・。


幽霊そして私の話
いっしょに働いていたスタッフが仮眠中で一人だったとき。ちょうどクリスマス前で病棟はいろいろデコレーションされていた。つかれもあって眠気が頂点に達していたとき、突然頭上に飾ってあったクリスマスのデコレーションが落ちてきて、私の頭を直撃。おこされた・・・。
これは単なる偶然か(笑)

ほかにも仮眠中に誰かが足にのってきた、ドアをノックされて起こされたなどなどあったけど。
こんな話をしつつも
「みんなFriendly Ghostだから、悪さはしないわよ~。大丈夫。怖くないわよ」
という結論に至る。

まあ、夜勤スタッフでGhostを怖がっていたら夜勤できないかもネ。笑い


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